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クリスマス・プレゼント



題名:クリスマス・プレゼント
原題:Twisted (2003)
作者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffrry Deaver
訳者:池田真紀子、他
発行:文春文庫 2005.12.10 初版
価格:\905


 タイトルから類推するとクリスマスに合わせた出版かと思われがちだが、特にクリスマス本というわけではない。超・売れっ子作家ディーヴァーの初短編集である。むしろその方がシンプルにディーバー・ファンの興味を惹きつけるような気がする。クリスマス・シーズンの邦訳出版なのはかえって勘違いを喚起するだけで、あまり得なことであるとは思えない。

 ディーヴァーは、これまでいくつかの顔を見せてくれていると思う。もちろんリンカーン・ライムのシリーズはアメリカで流行の科学捜査という点に絞ったミステリのヒットシリーズなのだが、そうした本格推理めいた謎、仕掛けに焦点を絞らず、むしろハードボイルドの系譜の支流にあるとさえ言えるジョン・ぺラムの三部作では、主人公そのものの頑固さ、反骨、一匹狼的な動きに魅力を感じさせる。

 サイコ・ミステリの楽しさとしての『眠れぬイヴのために』、監禁小説の傑作『静寂の叫び』なども、それぞれに違った才能を駆使したディーヴァーの多面性をうかがわせる。

 そういう意味で短編作家としてのディーヴァーの魅力は、本書で初めて露わとなる。一読して思ったのはローレンス・ブロックなみの筆達者ぶりが短編小説では明らかになるという事実だ。原題がほのめかすとおり、物事は見た目どおりではなく、ひとひねりしたところに短編小説の命がある、とでも言いたいような掌編が、16作。見事にここに集まった。

 表題作『クリスマス・プレゼント』は他の短編より若干紙数を費やした長めの短編。中篇というにはちと短い。ただ注目したいのは、これが現存する翻訳された最新のリンカーン・ライム・シリーズであるということだ。他の短編は、それまでに雑誌等に発表された純然たる短編作品であるのに比して、本篇のみ、短編集にまとめられた折に、作者が書き下ろした、いわばCDにおけるサービス・トラックみたいなもの。

 じーんと感動する作品というよりも、スリラーの魅力を前面に出した肩の凝らない犯罪小説がほとんどである。ストーリー・テリングについては、ディーヴァーであるというだけで既に語りつくされていることと思うが、短編小説は、まさにそのストーリー・テリングの見せどころ。

 長編で普段気づかぬうちに味わっているであろうこの作家の語り口の妙味、またさまざまなトラップの仕掛け方など、かれのやり口、テクニックを知ることができる貴重な一冊だと思う。

 翻訳ミステリにおいての短編小説は、国内の短編小説集とはずいぶん意味合いが違うように思う。海外の短編小説は、肩の凝らないイージー・リーディングのなかで、面白さを凝縮し、非常に娯楽小説として魅せ、同時に作者が遊び心を発揮するための、長編小説とはまるで別な存在であると思う。日本でも、こうした価値観によって作られた楽しい短編集が続々出現してくれればよいのだが。

(2005/12/31)