ソウルケイジ






題名:ソウルケイジ
作者:誉田哲也
発行:光文社 2007.03.25 初版
価格:\1,600




 『ストロベリー・ナイト』の続編、というよりむしろ主任刑事・姫川玲子のシリーズ宣言、と読んだ方がいいかもしれない。一作目ではいきなりの予期せぬ犯人と、いきなりの殉職者という、過激すぎたストーリー設定が、シリーズ化とは別方向を目指した単発作品というイメージが強かったが、『ジウ』のシリーズといい、この作者、美人ヒロインへのこだわりが強いらしく、『ジウ』完結の一方で永く使えるヒロインとして姫川玲子というキャラクターへのこだわりをより深めてきたのかもしれない。

 永く持つヒロインは(ヒーローにしても)、87分署シリーズのスティーヴ・キャレラ刑事みたいでなければならないかもしれない。あまり特徴があり過ぎてもいけない。その特徴に引っぱられて、事件そのものよりも本人の物語を進行させなくてはならなくなるから。

 シリーズ主人公に特徴を持たせすぎてしくじりかけた例はいっぱいあるのだ。かのマット・スカダーにしても、アンドリュー・ヴァクスのヒーロー、バークにしても。新宿鮫だって晶の物語を背負ったばかりに、本筋を語れなくなったためか、最近では晶を思い切り遠ざけて本筋に没頭しているところが見え見えである。

 ということを考えると、過去に大きな傷を負っているとは言え、現在ではそこそこ普通の女刑事に過ぎない姫川玲子というキャラは、彼女を取り巻くチームの刑事たちの顔ぶれを考えても、支障なく続けることができるそうな気配、十分である。

本編は、前作の過激なまでのグロさを少しだけ取っ払って、ミステリーそのものの構築に向け正統派シリーズを狙ったかと思われるところがあり、青春爆発ストーリーからのちょっとした脱却、明るく軽妙でいながらも、重たいドラマを意識したまっとうな娯楽作という着地を見せてくれたところに眼を瞠った。

 三枚目脇役の井岡が、本作でもまた存在感を出しており、87分署でいうゲスト・キャラのオリー・ウィークスみたいな役割を背負っているのか。暗い作品世界を明るく救い出し、しかも仕事もしっかりやってくれる、という頼もしさ。それとなくキャラが立っていて、オリーと同じように楽しい。

 いずれにせよ、誉田哲也という作家、実に冒険心溢れる作品を次から次へと出してくれており、そこそこ今後の息の永さと期待感を、現在のエネルギーの中に、同時に予感させる若手でもある。これで軽さ、悪ふざけ、遊びがなければいつでも王道を描けそうな気配ではあるけれども、その遊び心もまた誉田哲也の今は魅力であり重要なバランスであるのかもしれない。

 父と子を主題にしたミステリーであるが、やはり最後は過激か。しかし、この過激がなければ父の魂を描いての作品への加重が十分ではなかったのかな。圧倒的なスピード感があって、過去、現在を往還する謎解きの面白さにも満ちている。十分な娯楽快作と呼んであげたい。応援してあげたい。もっともっと化けるであろうことを期待して。

(2007/05/06)
最終更新:2013年01月26日 15:39