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荒涼の町



題名:荒涼の町
原題:Wild Town (1957)
作者:ジム・トンプスン Jim Tompson
訳者:三川基好
発行:扶桑社ミステリ 2007.03.30 初版
価格:\800

 何と言ってもこの作品の読みどころは、『内なる殺人者』(最近では扶桑社版新訳の『俺のなかの殺し屋』の方が通りがいいのかもしれないが)の悪徳保安官助手であるルー・フォードの再登場であろう。主人公は、バグズ・マッケナといういわゆる巻き込まれタイプで力自慢なだけの不運な能無し野郎なのだが、その馬鹿さ加減をさらに引き立たせるのが、図抜けて悪賢いルー・フォードなのである。従って本書の裏主人公とも言うべき存在感を、この作品でも、彼はしっかりと誇っているわけだ。

 但し、微妙に町の名前を変えたり、恋人(犠牲者?)の名前を変えたりしているところを見ると、あの作品のあの男とは別の世界の同姓同名の別人だと、トンプスンは言いたいのかもしれない。確かにこの作品でのルー・フォードは、生真面目な保安官助手という顔の裏に殺人者の正体を秘めているようには見えない。むしろ悪の賢者であることをひけらかすような自信たっぷりの笑顔を、常に表情に浮かべた強面の威嚇者であるかに見える。

 そればかりか、本作品は、謎解きミステリーみたいでもある。主人公のバグズが巻き込まれる偶然の殺人。そこに居合わせたらしい謎の女からの脅迫状。本当に殺したのは誰で、脅迫者は誰なのか。そんな不安に壊れてゆく主人公の心を冷徹に嘲り、真相を握ってゆくのが、名捜査官ルー・フォード、といった『内なる殺人者』の裏パロディようなどす黒い皮肉も垣間見える。

 また舞台が真夜中のホテルという点からは『深夜のベルボーイ』を思い出す。そこで働く夜番の勤務者たち……会計係、ベルボーイ、エレベーターボーイ、メイドといった連中は悪という側面においてはどいつもこいつも全く引けを取らない。

 そこに持ってきて弱気な羊たちの間抜けさが絡む。本書の主人公である警備主任のバグズ、総支配人、フロント係。どいつもこいつも深夜番がお似合いの、影の存在たちであるかに見える。

 そして夜を支配する者としてのルー・フォードの薄気味悪さが余韻に残る。『内なる殺人者』と表裏一体の作品として読めば、殺す者と暴く者とが表裏一体になった自己分裂型主人公としてのトンプスン流殺人者適性というあたりにまで思考を翔かせることが可能なのかもしれない。探れば探るほど深い闇が広がるばかり、と言ってしまえば、それまでなのだが。

(2007/05/03)