サヴェッジ・ナイト


(別訳)

題名:サヴェッジ・ナイト
原題:Savage Night (1953)
著者:ジム・トンプスン Jim Thompson
訳者:門倉洸太郎
発行:翔泳社 1999.6.25 初版
価格:\1,900

 凄い作品に出くわしてしまった。何とぼくが生まれる前に書かれた作品が今頃翻訳されて、しかもこれがパルプ・ノワールの巨匠と言われた作家の手になるものであると言う。なんだか心底惚れ抜いているような馳星周の解説も熱気走っていて、まさにぼくもこの作家、一気に取り憑かれた。

 ハメット的な簡潔極まりない文体。病的なまでに狭い視野から描かれたモノクロームのイメージ。恐怖と暴力が席巻する小さな田舎町に現われる年齢不詳の暗殺者の物語。

 どこかで見た世界。そう、ヴァクスの『凶手』の世界に酷似しているではないか。しかしヴァクスを遡ること40年も前に出現して、今ごろになって邦訳された極度にマイナーな作家。

 狂気と暗黒の小説。ペキンパ、キューブリック、タランティーノが目をつけた作家。あの『ゲッタウェイ』や『グリフターズ』の原作者と言えば知らない者もいないのに、わがFADV的世界ではあまり口に上ることのなかった作家。凄い発見をしてしまった。

 わけのわからないユンク的なラストシーンが読者層から一気に大衆を遠ざけてしまうような気がするけれど、ぼくはこういう混沌暗黒の結末はけっこう好きである。読後の酩酊感が何ともビターな一冊。

(1999.11.04)
最終更新:2007年04月22日 21:48