取るに足りない殺人


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題名:取るに足りない殺人
原題:Nothing More Than Murder (1949)
作者:ジム・トンプスン Jim Tompson
訳者:三川基好
発行:扶桑社 2003.09.30 初版
価格:\1,429

 アメリカの小さな町で映画館を経営する家族の話を、一年に二度も読むことになるなんてよもや思っていなかった。そんな話をぼくは今まで一冊も読んだことがなかったのだから。ランズデールの『ダークライン』は南部の少年のノスタルジックな味わいのミステリアスな物語だった。映画館の経営ということだけで既に何らかの郷愁を感じてしまうのは、ぼくのようにまだテレビがなかった頃に幼年期を過ごした世代、映画館の銀幕に向かっていた子どもたちの世代の特有の感覚だろうか。

 そうしたノスタルジーとはもちろん一線を画す作家ジム・トンプスンだが、彼の書いた初の犯罪小説がこの作品だという。映画館を経営する経済的な戦いをも含めて、小さな町での商売敵との争いのさ中、どこまでも情念の三角関係がもつれてゆく女と男とそして女。愛と性と金の亡者たちのドラマ。

 映画のフィルムが燃えやすい素材であることはスティーヴン・ハンターの『最も危険な土地』あたりを読んでいると納得しやすいのだが、そのあたりも含めて楽しめるのが、今回もまた後戻りのきかない犯罪と、その皮肉な行方である。

 主人公の企んだ犯罪と名無しの犠牲者。嗅ぎつける悪党どもの影に、手を組んでいたはずの女たちの裏切りと策略。もつれにもつれる悪意の糸が、主人公をやがて搦め取ってゆく。お互いを信じぬままに情事を重ねる男と女。皮肉なことに誰が見ても不自然で魅力のない女が何とも言えず作中のファム・ファタールであるあたり、トンプスンらしく屈折した男の欲望が暗い穴を見つめているようで恐ろしい。

 まだ書き慣れてはいないはずの犯罪小説だからか、いつも以上に凝りに凝ったプロットであるように思えるし、登場人物の多さを含め、ハードボイルド系列読者へのサービスが過剰かと思われる一面があるけれども、どの人間も暗い裏の顔を持っていて信用がならず、主人公の一人称の孤独がどんどん際だってゆく様子は、まさにトンプスンでなくては書き得ぬ閉塞の世界であったりする。

 どこにも出口のない密室のような町。暗い過去から脱け出したはずの男の起死回生の生きる手筈が、逆らいようのない運命によって知らず知らず瀬戸際のほうへ向けて押しやられてゆく。いつも堕ちてゆく男や女たちを描いてきたトンプスンが、手始めに挑んだ作品という興味を従えて、この作品はあくまでトンプスン的暗黒の中にひっそりと屹立しているように見えてならない。

 ある意味とても中途半端で(例えば、エリザベスの行方は?)、ある意味たまらなくトンプスン的な作品なのである。

(2003.10.18)