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デクスター 幼き者への挽歌



題名:デクスター 幼き者への挽歌
原題:Darkly Dreamingu Dexter (2004)
作者:ジェフ・リンジー Jeff Lindsay
訳者:白石 朗
発行:ヴィレッジブックス 2007.3.20 初版
価格:\890

 マイアミ市警鑑識技官のデクスター・モーガン。本性はシリアル・キラー。殺人衝動を止められない異常者。そんな男を主人公に持ってくる。しかも殺人鬼を追跡する側に、である。それだけでも破壊的な設定なのに、彼は実際に満月の晩に、個人的に悪党を狩ってしまう。それも解体などを伴うサイコパスのようなやり方で、残虐に、楽しみながら。

 一人称で語られる彼の主観に照合すれば、まず人間的な愛情を持つことができない。感情がなく、自分を人間ではなく怪物であると認識している。幼い頃に母を殺害され、血の海の中で発見された彼は、育ての親である警察官の亡き義父ハリーに、彼が犬を殺すなどの衝動に駆られる異常性を内に秘めていることを見抜かれる。ハリーは彼の殺人衝動を予測し、悪党なら狩ってもいいという許可を与える。ああ、異常だ。

 さて、こうして書くと暗く救いのない主人公なのだが、主人公は感情を失っているので、読んでゆく分には一人称文体からは楽天性こそ感じられるけれど、陰湿な暗さのようなものは感じられない。むしろブラックなユーモア精神に溢れており、同じ一人称の異常探偵小説であるエリック・ガルシアの『鉤爪』シリーズを思い出させる。あちらは恐竜が人間型スーツを身に纏っているという馬鹿げた設定ながらも本格的なハードボイルドの匂いをかもし出す、完全なパロディ小説なのだが、本書では、サイコ殺人鬼が常人の皮を被って事件に挑んでゆくというやはりふざけた設定の作品なのである。

 『鉤爪』シリーズでは、人間に見られていないとき、恐竜同士が皮を脱いでくつろいだり、闘い合ったりするように、本シリーズでは殺人鬼同士は互いの持っている異常な欲望を見抜き舌なめずりする。

 そしてハリーズ・ルールとして、主人公がことあるごとに思い出させられる亡き義父の教えが、やはりおかしい。感情はないのだが、義父の教えは守ろうとする。内的衝動である殺人への血に飢えた欲望と、義父のルールの間で引き裂かれそうになる。多重人格への疑惑を自らに捨て切れない不安の中で、義父の確かな存在が彼を導く辺りは、ドン・ウィンズロウのニール・ケアリーのシリーズを思い出させるものがある。

 残虐にしてマイルド、危険だが喜劇的でもあるという、この変てこなシリーズ。独特の粘っこい文体に悪夢的なリズムが刻まれ、奇妙な感覚に引きずり込まれそうになる。相容れないはずの殺人者の主観で語られる、奇妙で異常な事件ファイル。これはそのままアメリカではドラマ化されているらしい。原作シリーズも既に3作まで発表済み。

 デクスターの勤務するマイアミの科学捜査班といえば、まさにTVシリーズ『CSIマイアミ』そのものではないか。原作もドラマも、リアルタイムに近い場所で凌ぎを削ってゆくことになるのか。ラストの展開から言って気になるのが続編。まだまだ、どう化けるとも判断しにくいシリーズだが、当面、気になる話題作であることは間違いないところだ。

(2007/04/08)