ダブル



題名:ダブル
作者:永井するみ
発行:双葉社 2006.09.25 初版
価格:\1,800

 この長編で少しこの作家に対するイメージが変わった。社会派ミステリーというイメージでデビューし、そこそこの問題作にチャレンジしてきた印象があるのだが、この作品で描かれているのは、日常の狭間に見え隠れする人の心の怖さの方だ。

もちろん人間を取り巻く社会環境といったものが、心の歪みの原因になるということはあるのかもしれないけれど、ここではそうした問題を浮き彫りにしているわけでもない。家の外に出れば、人は見も知らぬ他人たちへの違和感を普通に感じながらも、夜には家に帰り、家族という避難所の中で暮らしてゆく。そんな日常の中にすっと射してくる負のエネルギーが、殺人にまで発展する動機とは、どこから来るものなのだろう。

 一人の女性ライターが、大きく飛躍するチャンスを掴もうと、こだわり続けるある事故死の謎を探るうちに、奇妙な事故死の連環に気づいてゆく。最初から少しだけ怖いが、この恐怖は徐々に高まってゆく。

 一方で、明るく優しい若き妊婦の日常生活が、描かれる。二人の女性主人公が次第に引き寄せられてゆく運命の中で、どうしてタイトルが「ダブル」なのかということに、拘ってしまうが、なかなかその真相は明かされない。奇妙な事故死が重なる中で、女性ライターのインタビューは徐々に危険な領域に踏み込んでゆく。

 彼女たち二人は、全然違う性格でありながら、現在を生きる女性として、そこそこ魅力的ですらある。その彼女らを取り巻く周囲の人たちは二人にとり近しく優しい存在であるが、一方で知らない他人たちは、危険を孕んだ恐ろしい存在のようにも見える。女性作家ならではの、人の外見がもたらす恐怖、といったところを掘り下げた少し得意でフリークなミステリー。

 途中から真相の見当がついてしまうかもしれないが、ミステリーというより、和風サイコ・ホラーとして読めないこともない。そのくらい些細なことから恐怖を生み出す仕掛けに満ちた小説である。

 女は怖い! その一言に尽きる小説である。この物語の女たちは怖い。こんな物語を作り出した作家も怖い。男ではなかなか作り出せないタイプの恐怖小説、と言ったところか。

(2007/04/01)