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娼婦たち



題名:娼婦たち
原題:WHORES (1988)
作者:JAMES CRUMLEY
訳者:大久保寛・松下祥子
発行:早川書房 1993.4.30 初版
価格:\1,600(本体\1,553)

 11 編の短編、エッセイ、インタビューによるクラムリーの貴重な作品集。

 書きかけの小説、『メキシコのリュウキュウガモ』』は唯一この本の中のハードボイルド作品。『さらば甘き口づけ』のスルーの後日談である。この作品の一行一行にぼくはクラムリーを感じる。クラムリーは最初の一行に一年をかけ、第一章を書き終えるのにさらに一年をかけるとのことだが、その文章にかけるクラムリーの入魂が伝わってくるような短編である。ただし、現在ではこの短編は修正に修正を重ね、元の形は跡形も残っていないという。日本では宮沢賢治の草本が有名だが、クラムリーも出版社泣かせの、ある意味でストイックな作家であるのだと思う。

 『パパは狩に行った』1974年作品。最も純文学的な作品であるが、クラムリーの作品の特徴である自然との一体感が色濃く出ていて興味深い。独特の自然描写が連なる。

 『娼婦たち』1977年作品で、これもハードボイルドの系譜であろう。クラムリー独特の恋愛小説とも言える、非常にビターな味わいの作品。

 『女たらし』『さらば冷酷なる世界』『石の墓標』とブラックな佳品が続くが、『敵役』『彼女が書けないこと、書けない理由』では、小説の形をなさないような実験的側面を見せてくれている。でも、書かれることは、いつも冷酷に客観視された皮肉の世界ではなくて、クラムリーの、誠実で狂おしい眼差しを通した「人間的な現実」である。

 さらにインタビューが続くが、この中で『ダンシング・ベア』は珍しく一年半ほどで書き上がった作品だと言っている。なるほどあの作品のスピード感は、書かれた時間の短さであったせいだったのか。また初めて書いた小説のことや、ドストエフスキーの小説に叩きのめされたこと、リューイン、コンスタンティン、グリーンリーフなどを買っていることなど、興味深いインタビューが展開されている。

 『トマス・J・ラブに万歳三唱』は、 重厚な青春矛盾小説。『ヒューストンを車で回る』は珍しいルポルタージュで、ヒューストン紀行であり、クラムリーのテキサスへの帰郷物語である。故郷喪失感に溢れたクラムリーのデカダンスが伝わってくる。

 ハードボイルド的味わいというより、クラムリーの源流をマニアックに探れる一冊として本書はとても貴重な存在であると思う。

(1993.06.19)