防風林


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題名:防風林
作者:永井するみ
発行:講談社 2002.1.16 初版
価格:\1800

 いったい世の中のどれだけの人が防風林の近くに住んでいるだろう。防風林は風を弱めるために人為的に植樹された地形であり、そこには何らかの形で恩恵を受けた住人の生活が存在するはずだ。普段考えることのない防風林という存在だが、実はぼくの家のすぐ近所に何キロにも渡って防風林はまっすぐに木々を繁らせている。石狩湾からダイレクトにやってくる冬の風雪を防ぎ、ポプラの綿毛を舞わせることで春の到来を知らせ、真夏には蝉の声と深い緑と濃い日陰を演出し、秋に落ち葉の絨毯を踏んで歩く。防風林はぼくもぼくの息子もいつも見つめ、歩き場所である。

 タイトルが思い切り『防風林』であるこの小説は、ぼくの住むそんな札幌の新興住宅地を舞台に(地名は架空だけれども)、まるでトマス・H・クックの記憶シリーズのように叙情的に美しく綴られたミステリーである。そのリリシズムを作り上げているのが、真冬の防風林であり、降り続け、降り積もる果てしのない雪である。

 死期の近い母の過去を尋ねて、帯広の丘を訪れたり、東京に出かけたりはするけれども、ほとんどが札幌のこの一区画を舞台に繰り広げられる。記憶の底にかすかに見える母の後ろ姿や、何気ない人々の昔語りの中に、徐々にかつてそこに起こった事件の陰がちらつき始める。もちろん呼んでいるうちに事件の内容については大抵想像がついてしまうのだが、最後の最後までミステリアスなのが、美しきヒロインのイン
ナースペースであるところが、シックだなあとつくづく思う。

 しかしこうした和製トマス・H・クックのような小説を、この人が書けるとはぼくは全然予期していなかった。もっとも、書くたびに前作とは傾向のかなり異なる小説を作ってきたという、少し予想しがたい面が永井するみと言う人にはあるのだれど。

 一つ書き忘れるところだった。ぼくの家は防風林より風上側にあるので、防風林の恩恵には預かっていません。

(2002.04.06)