夜よ泣かないで



題名:夜よ泣かないで
作者:香納諒一
発行:双葉社 2006.11.20 初版
価格:\1,900

 立て続けに長編作を出している香納諒一、今度は、また少し毛色を変えた。ヒロイン・純は、言葉が喋れない。彼女がヘルパーとして雇用されている先は、ヤクザの組長夫人・絹代。出逢った助っ人は、闇プロレスで糊口を凌ぐ女子レスラーの夏子と、小人のマネージャー・村雨春男児。何だか、これだけでも十分西遊記みたいである。

 絹代が三蔵法師で、ヒロイン純が孫悟空。夏子の猪八戒に、春男児の沙悟浄だ。

 『梟の拳』では盲目のボクサーを主役に据えたが、言葉が喋れなヒロインは、延々物語の進行の中でも人と会話をすることがない。ハンディキャッパーを主人公にすることは、作家として既にハンディキャップを負っているということなのだな、とその腕っぷしに驚きながら本書を読んだ。

 最初は歌舞伎町界隈の病院入口での銃撃に始まる。純の腕の中で死んでゆく逃走犯との間で交わされる超人的なテレパシー。そう、本書は少しだけ奇妙な能力を持った純のストーリーである。少しだけファンタジック、少しだけ人情ドラマ、それでいて器そのものは国家歴史まで巻き込んだ大スケールの陰謀劇である。

 こうした設定だけで、既に現実離れして入るものの、普通の人が出てこない闇の世界の住人たちによる、魂の救済の話という辺り、きちんとポイントを抑えているように思える。

 最初はハードボイルド風に始まるが、徐々に残忍な暴力の気配が漂い、物語全体の暗い側面が徐々に露わになってゆく。舞台を諏訪に移してからは、より冒険小説の空気が強まり、最後は活劇、また活劇、と、香納諒一のスケール・アップが目立つ。

 娯楽色が強くなる分、リアリティは失われるが、本作品は、寓話的素材を持ち寄った中で、心を取り戻す小説、自分と出会い、一つ強くなってゆくヒロイン・純の物語でもある。おもちゃ箱をひっくり返したような素材の多様を纏め上げる作家の技量はますます磨きがかかっている。人間という軸から決してぶれないところが、いつもこの作家の魅力であり続けているのだと思う。

(2007/03/25)