警察庁から来た男



題名:警察庁から来た男
作者:佐々木 譲
発行:角川春樹事務所 2006.12.18 初版 2007.2.8 2版
価格:\1,600

 誰もが警察小説という時代になったのだろうか。一頃の作家たちが、警察嫌いの私立探偵ではなく、どんどん警察小説を書くようになった。警察という組織のもつ自己矛盾が、個性的な舞台設定を生みやすいというのもあるかもしれない。87分署に代表されるような正義の警察官たちのチーム・ドラマから、ジェイムズ・エルロイの描く腐敗構造の中でのサバイバリストとしての警察官たちの存在に、人々の興味がスライドしている印象も否定し難い。

 そんな警察小説ブームの中で、『うたう警官』『制服捜査』に続いて本書『警察庁から来た男』と立て続けに傑作・話題作を供給し、一挙にスターダムに躍り出ているのが、佐々木譲である。

 題材はある。現実に世間を呆れさせた道警裏金疑惑。しかもメディアを騒然とさせた内部告発による派手な暴露劇、その組織立った腐敗のスケール感から言っても、これまでの警察ネタの比ではなかった。そこに北海道在住作家、佐々木譲の登場である。

 東直己がエルロイばりの道警の恐怖と悪辣さを、外堀から攻め込むのに対し、佐々木譲は一気に本丸に殴りこむ勢いで道警疑惑に攻勢を駆ける。しかも内部の腐敗に抵抗する現場警察官たちの姿を通して、警察内部の暗闘と生き残りを駆けたドラマを展開したのが、『うたう警官』であった。

 同じく、道警疑惑に端を発して、地方の駐在に異動させられた警察官を描いた『制服捜査』が、また反骨の精神と内なる正義の心とを前面に出したヒューマニズム溢れる警察小説として、注目を浴びた。

 本書は、『うたう警官』の続編であり、さらに真っ向直球勝負を賭けたものとして、なんと本庁の監察官を道警にぶつけてゆくというある意味超大スケール作品なのである。

 『うたう警官』で裏捜査本部を作り上げたあの現場連中がふたたび終結し、監察官の動きとは別の軸で、警察の裏のまた裏に巣食う奴らを追い詰めてゆくのだが、何とも痛快極まりない。

 あり得ないようだが、現実にはあるのかもしれないと思われるような、交番の不審な対応ぶりは東直己の『後ろ傷』の冒頭のシーンとだぶるし、追及の手を緩めないキャリア監察官は、今野敏の『隠蔽捜査』と被るものがある。

警察の闇の奥を題材にしたい作家はいくらでもいるのだが、ある意味、佐々木譲なりの世界は独自である。

 痛快な戦いぶりをする主人公ら、これを抑圧しようとする権力の愚昧。こうした対立構図が、佐々木版歴史小説の内容とひとつも変わっていない、と思い至れば、改めて愕然とせざるを得ないわけだが。

(2007/02/25)
最終更新:2007年02月26日 01:31