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勝利


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題名:勝利
原題:Shattered (2000)
著者:Dick Francis
訳者:菊池光
発行:早川書房 2001.5.15 初版
価格:\1,800

 なにげなく読んでしまった。毎年読む競馬シリーズの中の一冊として。昨年読み、また来年も読むことのできるフランシス世界の1ピースという気持ちで。だから、巻末の解説を読むまではぼくは知らなかった。取材を行なっていた夫人が亡くなって、作家は筆を折る決意をしていたなんていうことを。これが最後の作品になるなんてぼくは、この本を読んで楽しんでいる間中、全然、知らなかった。

 思えば、菊池光という訳者が巻末の解説を書くこと自体が非常に稀有そのものではないか。思えば、このタイトルを孫が決めたっていう最初のエピグラフにメッセージ性があったのかもしれないではないか。思えば、新世紀の幕明けを冒頭に持って来たことだって、何らかのメッセージであったのかもしれないではないか。

 何気ないようでいて何かが盛り込まれている。フランシス作品はいつだって、この作品の主人公のガラス職人の商品たちのように、丁寧な仕事が施された結果としての精細な形でぼくらの前に提供されてきた。キャラクターにもドラマティックなエンディングにも、多くの性格が与えられ、多くの無駄が削がれていた。

 どこの作品をとっても駄作と言い捨てることのできるものはなく、本当に丹念に作られている印象があり、それはこのラストワークでも同じであった。何のためにガラス工芸のテクニックが描写されているのか理不尽な思いに駆られて読み進むと、そこにはきちんと繋がってゆく道があり、ぼくらは新しく広がる道に進んでゆくことができる。

 いつにもまして油断の多い主人公がある瞬間に闘争心のすべてを賭けて一発逆転の勝利を呼び込んでゆく切れ味は、この作品でも健在であり、さすがフランシスと唸らせるものがある。主人公たちのここまでの油断、弛緩、粗雑に読者は苛立ちを募らせ、大抵は追い詰められてゆく。

 警察を頼りにせず、悪党を赦免する主人公……こんな甘っちょろい男が一体これまで何人登場して来ただろうか。そしてラストの爆発力……そんな劇的なエンディングを一体どれだけ用意して来たことだろうか。多くの成長する子どもたちをフランシスは一体どれだけ描き続けてきたことだろうか。多くの輝ける未来を、そして誇りを一体どれほど描いてきたことだろうか。そして多くの愛する女性たちを一体どれだけ……。

 …………。

(2001/09/06)