春を嫌いになった理由(わけ)



題名:春を嫌いになった理由(わけ)
作者:誉田哲也
発行:幻冬舎 2005.01.25 初版
価格:\1,600

 まずはホラー系からデビューした作家だったことをこの作品で思い出した。メジャーデビューといえる『アクセス』は四回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞だった。まだ若書きの印象が拭えないが、その後どんどん作品を上梓続けて、瞬く間に期待度が高まる注目の作家になった。

 本作はメジャー第二作である。『ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖(あやかし)の華』という幻の作品があるようだが、学研出版のジュブナイルなのだろうか。やはり『アクセス』からカウントし始めたい。その第二作にして、いきなり『アクセス』からのハイ・ジャンプを達成しているという印象が、本書にはある。

 ずっと作者がこだわるヒロイン系小説としての根っこはここにもあり、後の門倉美咲(『ジウ』)、姫川玲子(『ストロベリー・ナイト』)に繋がる魅力的かつ庶民的なキャラ作りのベースもここらあたりかと思わせるものはある。

 サービス精神の旺盛さもこの作品では、欲張りすぎかと心配したくなるくらいに遠慮会釈なく前向きに放出し尽くしている感が強い。無職の主人公は、たまたま英語とスペイン語が堪能なばかりに、TV局ディレクターの叔母から、霊能者の通訳を依頼される。テレ朝系列でよくやっていた外国人霊能者による行方不明者捜索、や迷宮入り事件の追跡などのドキュメンタリー系バラエティ番組を材料にしたものである。

 取材、インタビュー、死体の発見、そして真相の究明を、生番組特番でやってゆくというメインの流れに加え、サブ・ストーリーとして蛇頭により日本に密入国する福建省の兄妹の物語が交錯する。一見混じりようのない物語が、二本、クロス・ポイントに向けて走り出す、というノンストップな作りになっている。

 脇役たちのキャラが立っており、中国人たちの裏社会で暗躍する非情な殺し屋の恐ろしさといい、ヒロインに何かをいつも暗示しかけてくる女性霊能者といい、いつまでも気になる存在として物語に緊張感を与え続ける。

 馳星周ばりに中国系暗黒社会を描く一方で、ナイト・シャマラン監督『シックスセンス』を思わせるようなホラー系どんでん返しの驚きプロット、そしてロケ・チーム内での明るいユーモラスな雰囲気や、死体発見のサスペンス、などなど、どこを切っても楽しく娯楽度満点の作品である。

 グロいばかりではなく、明るいヒロインの存在によって、救われている点なども、後の作品群に共通するものがあって好感が持てる。女性は強い、というのが誉田哲也作品における共通言語であるのかもしれない。

(2007/02/12)
最終更新:2007年02月13日 00:09