ツーダン満塁



題名:ツーダン満塁
作者:矢作俊彦
発行:東京書籍 2002.02.01 初版
価格:\1,600

 ちょうど一年前にも矢作のエッセイを読み終えていた。なぜか二月の雪の振り込める休日には矢作の文章が読みたくなるものなのかもしれない。どこにも出かけられない閉塞感を吹っ切りたい気持ちに、言霊のような矢作の文章は翼を与えてくれるのかもしれない。

 第一エッセイ集『複雑な彼女と単純な場所』は主に、雑誌「プレイボーイ」などに書かれたもの、第二エッセイ集くらいからは「NAVI」や男性総合週刊誌などのエッセイが混じる。第三エッセイ集である本書は、主に「NAVI」「OP」、それ以上に目立つのがTBSのホームページへのコラム掲載の文章が多いということだ。対談も含めると、実際の神ベースの原稿以上に、インターネットを通じて回線を辿って集められた文章が多くなっていることがわかる。

団塊オヤジの作家の文章製造工程も、すっかり時代にフィットさせられている。いや、だからこそこれまでの受身の世代ではなく、戦後世代であるのか。変化を柔軟に受け入れながら、こだわるところは徹底してこだわるという、扱い難い世代で……。

 ネット掲載のコラムは、放送局のサイトということもあるせいか、非常にニュース話題が多く、時事放談といった内容であり、一文一文が短すぎて、読むには味わいが足りない。かえって「NAVI」や「OP」掲載の長文エッセイ、ルポルタージュなどの、どちらかといえば好き放題に遊びもあって書いている部分の方が、楽しめるところは多い。

 車、長島、日活アクションスター、日本への愛憎半ばする思い、時代へのこだわり……いつもの矢作がやっぱりここにいて、徹底した美学趣味が胡散臭いほどに行間から立ち込めてくる。嫌なオヤジなくせに、胸にじんと響く文章を書きやがる。臭い趣味であれ、こだわりを超えた感性の共通言語で、世代や思想の枠を破壊し、心に捩じ込んでくる何かを持つ。

 だからこそ他の誰でもない矢作俊彦という、あまり仕事熱心とはいえない、しかし書くときには徹底して文章のプロである作家がここにいる。死後に文壇の殿堂入りさせるときには、煮ても焼いても食えないマイペース作家という棚にでも放り込んでおきたい人である。

(2007/02/12)