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地を這う虫




題名:地を這う虫
作者:高村薫
発行:文藝春秋 1993.12.1 初版
価格:\1,600(本体\1,553)

 高村薫、初の短編集。長編作家としての高村薫の力量はもう十分思い知らされてはいたけれど、果たしてこういう作家に短編小説が期待できるものなのかどうか……と恐々、読んでみたのだけど、何の何の、これはすごい短編集です。

 発表時期は昨年の12月に始まってこの11月までだから 1 年足らず。それなりに1年以内に纏めて書かれた5作……という匂いがありありだ。すべてに共通するのが、退職刑事というテーマ。刑事を定年まで勤め上げた人にしろ、何らかの原因で刑事をやめた人にしろ、そうした過去のなにがしかの闇体験のようなものが、やがてまたうずき出す。魂を抛り出してしまったような敗者たちが、もうひとつだけ闘いに身を乗り出す。

 もっともアメリカのハードボイルド私立探偵というのは、元警察勤務でないと資格が得られないようで、たいていが警察機構をドロップアウトした探偵であるのだった。マット・スカダーのように無資格探偵であろうと、やはり警察をやめることになった事件はマットの足取りにとても大きく重要な影を落としていたのだった。

 本書は、短編ならではの無駄の少ない粒ぞろいで、これまで高村はどうもという方にも、無理矢理薦めたいパワフルさである。『地を這う虫』などは短編だが、けっこう忘れ難い傑作であると思う。短編小説とは、寄り道の少ないストレートな魅力を持っていると思う。この辺寄り道だらけで失敗した花村萬月と違い、稲見一良や高村薫は短編がいいなあ、とつくづく思っています。

(1993.12.21)