李歐/「わが手に拳銃を」改題改稿版



題名:李歐/「わが手に拳銃を」改題改稿版
作者:高村薫
発行:講談社文庫 1999.2.15 初版
価格:\714

 今頃『李歐』の感想。

 勿論『わが手に拳銃を』のリメイクなんだけど、高村薫という作家、ぼくの知るだけでも三作をリメイクしている。そしてそのすべてにおいて、部分改定なんて生易しいものではなくって、とにかく最初から一切合財書き直してしまう、とでも言うような荒技を見せる。文筆を生業とする経済生活自体に相当な余裕がなければこんな贅沢な作家業はできないと思うけれど、高村薫のベストセラーぶりを見ていれば、こうしたことも納得できる。

 『黄金を抱いて翔べ』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞して作家デビューを果たす前年に、『リヴィエラ』で入選を逃し佳作。彼女はこれを書き直し、何と直木賞を同作のリメイク作品『リヴィエラを撃て』でさらってしまう。その後デビュー二作目であった『神の火』を文庫化に当たって全面リメイク。そして今回の『李歐』は大リメイク作業の三度目ということになった。

 『リヴィエラ』の事情は少し違ったと思うのだが、『神の火』と『李歐』においてはどちらも元作品より遥かに読みやすくなったという点で共通する。もともとがどろどろした情念を積み上げてゆくようなストーリー運びを個性とする作家なのだが、あまりに屈折した思わせぶり文体をやや抑え気味にして、よく整理して、大筋をわかりやすくしたという印象だ。

 ラストシーンはこの『李歐』は『わが手に拳銃を』とは大きく変わったけれど、前作より全体的に整理され、人間関係がとても掴みやすかった。ぼくは当時から高村薫の男対男の恋愛感情描写が残念だと書いていたのだけれど、さすがに何作も読まされているうちに、高村はこういうホモッ気が好きなのだ、そういうところが女性の視点なのだと思うようになり、それが軸になり過ぎた作品はある程度距離を置いて読み流すことができるようになった。

 とにかく『わが手に拳銃を』の時代から7年も経ったのだ。作者にとっても読者にとっても7年という時間は決して短くも軽くもない。あの当時カタカナだったリ・オウに李歐という字が当てられたというだけではない。双方の時間の経過をリメイク本によって楽しむという、読書としてはまたとない興味を込めて読んだ一冊だった。

(1999.12.26)