リヴィエラを撃て





題名:リヴィエラを撃て
作者:高村薫
発行:新潮ミステリー倶楽部 1992.10.20 初版
価格:\2,800(本体\1,942)

 高村薫は昨年、新潮推理サスペンス大賞を『黄金を抱いて翔べ』で射止めているけれど、その選評の中に出てくるのがこの作品。その前年にノミネートされて、落選したのがこれであるようなのだ。このデビュー作に手を入れてきちんとした出版物にしたのがこの本というわけである。『黄金・・・・』や『神の火』は襲撃小説で、ぼくは文句なしにそのクライマックスを楽しんだ娯楽作品であるのだけど、その後の『我が手に拳銃を』は、なんとなくホモたちの拳銃密造、スパイ・コンゲーム小説って感じで、とりわけそのラスト・シーンがあほらしくっていただけなかった。ラストをあんなにしなければ結構よかったのだけど、女性作家の勝手な性欲で登場人物たちを同性愛者だらけにされるのはあまりに不自然すぎた。

 さて本書もホモっぽい部分がうるさい小説で、そういうものがなければほんとにいいものが書ける作家なのに、イマイチどうしてもその点は譲れないみたいでなんか残念な思いがいつも最後までするのだ。男にとってホモっぽい思いなんかが年中書かれていると、オーソドックスな性欲の持ち主にとっては、とっても冒険小説的な興趣を削がれるし、生理的に心理描写、印象描写自体がとってもいやなので、作品としてすごく損をすると思う。それでも書き続けるこの女流作家はなんなのだ?

 さてその点を差し引いてこの本を読むと(最近そういう器用さがなくなってきたんだけど)、文章は大変成熟を感じさせていて素晴らしい。一言で言えばIRAもので、わりと意外であるが、何でも作者はこのへんの土地が好きでけっこう詳しいらしい。アイルランドやロンドンが大半で、ちらっと東京が出てくるけれど、基本的に主役はIRAのテロリストである。スパイたちの騙し合いと国家間の野望が渦巻くスケールのでかい話をこの作家一流の屈折したどろどろ情念サスペンスに仕上げている。なんか翻訳ものを読んでいるような感覚であったなあ。

 日本人作家としては希有なほどの才能だけど、この本とってもわかりにくいプロットだしM冗長な部分多いし、 どうなんだろう? 受けないとは思う。いずれにせよ、ぼくは基本的にこうしたきめの細かいストーリー作りは日本では大変珍しさもあって買っています。この作家は結局どうけなしても読んでいくことでしょう。欲を言えば、もっと娯楽に徹して欲しい。作者の偏った想像に属する男心に関してはあまり突っ込んで書かないで欲しい。やっぱり魅力的な女性を描けるようになったら高村作品も一人歩きできるようになるんでしょう。これが女流作家の欠点だなどと言わせないでくれ。期待しているんだから。

(1992.11.10)
最終更新:2007年02月10日 23:23