わが手に拳銃を



題名:わが手に拳銃を
作者:高村薫
発行:講談社 1992.3.28 初版
価格:\1,700(本体\1,650)

 これまでの高村薫の二作は襲撃ものだったのでそれなりのアクション・シーンというのがなかなか大掛かりで、カタルシスも素晴らしく、ぼくは好きだったのだけれど、本書は『神の火』の前半の情念どろどろだけでできあがってしまったような、生煮え小説という印象を受けてしまった。

 これまでの二作の感想でも言ったのだけど、どうもこの女流作家、男同士の友情というものがホモっぽくて、普通じゃない。女性が書く男たちの話ってこういうムードになるのが多いような気がするんだけど、男たちってこんなに互いを必要としたり、運命的に出会ったり、恋焦がれるような気持ちを抱き合ったりはしないのではなかろうか? この本では互
いに魅かれ合うことになる二人の出会いのシーンは、なんとなく男の一人が踊りを踊ったりして、それを主人公の側は眼の中から強烈な光が飛んできた、というように感じ、胸騒ぎを感じたりするんだけど、これはやはり同性愛ではない?

 全体がまずその男同士の恋愛話といってもいいであろう、長い時代に渡るふたりの葛藤と捻り合いの物語なのである。「情念どろどろ」というのはそういうところ。

 さてこの軸似まとわせた衣装の方であるが、これが今回は高村ハードウェア志向が<銃器密造>に向けられている。折りからこのところ紙面を賑わせている暴力団や拳銃密造の摘発、と重なってタイムリーな本であると思う。もっとも暗躍するのは暴力団と言うより、華僑や香港マフィア、北京や台北の諜報組織といったところで、またもコンゲーム的な複雑で曖昧な人間関係が時代を越えて繋がってゆく。

 ときどきストーリーが長い時間をジャンプするのだが、この辺は読者によって好き嫌いが出るところかもしれない。全体が一人の男の半生記みたいなもので、何かが起こると期待するわりには大きな爆発がなく、いきなりジャンプ……といったやり方では、正直言って今一つのめりこめなかったです。ただ高村文体ともいうべき硬派の筆力は全体に一つの張り詰めた空気を作っているから、それだけでもそんじょそこらの作家では味わえないものが本にはちゃんと込められていると思う。

(1992.04.16)
最終更新:2007年02月10日 23:17