ヨコハマ・ベイ・ブルース



題名:ヨコハマ・ベイ・ブルース
作者:香納諒一
発行:幻冬舎 2000.3.10 初版
価格:\1,600

 二人コンビの刑事もの映画が好きだ。とりわけ二人の主役の個性が際立っていてそれぞれに演じる役者が上手いとなるとそれだけで、映画は低予算であれなんであれ成功したようなものではないだろうか。

 『破壊』のエリオット・グールドとロバート・ブレイク。『フレンチ・コネクション』のジーン・ハックマンとロイ・シャイダー。『フリービーとビーン大混戦』のジェイムズ・カーンとアラン・アーキン。『48時間』のニック・ノルティとエディ・マーフィ。それぞれに対照的なコンビでその不調和が映画のストーリー軸を波打たせ、観客を事件そのものとは別のリズムで乗せて行く。こういう乗せられ方は好きだ。

 香納諒一という作家は二人組コンビを何度となく描く日本では珍しい作家だ(ロス・トーマスなどは二人組クライム・ノベルの専門的作家だと言っていいかな)。第一作目『夜の海に瞑れ』で登場させた悪役コンビを『さらば狩人』(『石(チップ)の狩人』改題)で、主役級に格上げして再登場させたときには、この作家、自ら作り出したキャラクターにとても愛着を覚えて大切にしてゆくタイプなんだ、とわかった。

 本書は香納諒一の代表作である『梟の拳』の脇役であった呼び屋の金に新しいキャラクターである元刑事を組み合わせて作り上げた二人コンビもの連作短編集。作家のキャラクター作りへの入れ込みがよくわかる一冊だ。キャラへの入れ込み様に関してはあとがきにも詳しくなるほどと思わざるを得ない。

 良くも悪くもキャラクター作り第一。これが香納諒一の創作主義であろうし、ぼくが読書というものに求める最大の醍醐味である。

 また横浜に関しては、ぼくは公私共によく歩いた街であり、札幌から思うヨコハマという舞台はとても懐かしかった。いつも定食を食べていた中華街の鴻○別館や、マル・
ウォルドロンや板橋文夫が演奏するたびに出かけていた場末のジャズハウス<Airegin>。幼い頃に連れ歩かれた山下公園や氷川丸。仕事で走り抜けていた石川町の運河縁や汚れ錯綜する路地裏。国道16号と、本牧界隈。横須賀のどぶ板横丁に米軍用地。そうしたすべてが生き生きと思い出されるのは、ぼくがそこの住民ではなく時間のベールを通してヨコハマを思い描くからなのかもしれない。ちなみにベイ・ブリッジ建設以降はあまりヨコハマに用事がなくなり、ぼくはすっかり足が遠のいてしまった。

 閑話休題。

 本書の元刑事には過去に警察を追い出された因縁があって、それが未解決の形で作中語られる部分がある。この過去の事件の清算に関しては別途長編を用意しているようで
あり、そちらのほうも大いにというか、かなり楽しみなところである。

 ちなみにこのタイトル。松田優作主演、工藤栄一監督の『ヨコハマBJブルース』を懐かしく思い出してしまう人も多いのではないだろうか?

(2000.04.23)