刹那の街角




題名:刹那の街角
著者:香納諒一
発行:角川書店 1999.5.25 初版
価格:\1,700

 どちらかと言えば犯罪者の世界を描くことのほうが多い著者としては、極めて珍しい警察小説という形での連作短編集。同じ捜査課の一人一人に焦点を当てた短編を一作一作読んでいるうちになんとなく捜査課全体の人間像や人間関係が明らかになってゆくという、不思議な魅力を持った作品。

 考えてみれば『太陽に吠えろ』だって『特捜最前線』だって一話につき一人の刑事がピックアップされてドラマとなり、それが重なるうちに、刑事たちの群像が全体的によりイメージされて愛着が出てくる(その辺で一人殉職させるとかするわけだけど)。

 この辺の手法は別にTVドラマだけのものではなくって『87分署シリーズ』『マルティン・ベック・シリーズ』などの大御所シリーズでも使われているものであって別に新しみはない。それでも警察小説はこうでなくてはという一つのポイント。これを香納諒一はきちんと踏襲して小粒ながらも連作小説に仕立て上げたわけである。

 当然、最近では短編の名手とでも言いたくなるような香納の腕前をして、一つ一つがハードボイルドのつぼを抑えているだけに、そこに広がるのはあくまで香納ワールド。安定した、タフでヒューマンな描写が味わい深い。

 この刑事たちを使った長編なんてところも考えて欲しいところだ。

(2000.01.04)
最終更新:2007年02月10日 21:05