深夜にいる



題名:深夜にいる
作者:香納諒一
発行:中央公論社 1997.9.7 初版
価格:\1,600

今年は短編集二冊であったか。デビュー当時は、ストーリーのアクション性などに気が行っていて、評価がそれほど芳しくなかった。それでも何かいいところを持った期待の新人というところで話題にはなった。ぼくは個人的には、とてもいいものを持った作家……と最初から信じて読んでいたので、いつでもこの作家の作品には期待値込みの大甘評を下し続けた。

 でも『風熱都市』の頃から比べると、『梟の拳』『ただ去るが如く』と次第に大人の作品と呼べるものに作風が変化してゆくに従って、世の中の香納諒一に対する眼もどこか熱くやわらいだものになってきたと言えるだろう。

 また、それ以上に今年の二冊の短編集は、高評価であったと思う。長篇に求められる厳しいまなざしではなく、軽く好ましい短編集として手に取られる場合、短編ならではの技術と作家の本質が問われるものである。その点で、香納諒一はある高度のハードルをクリアしてはいるように感じる。

 ローレンス・ブロックの短編がぼくは好きだが、海外ものの短編の例に漏れず、残酷で過酷で、非情である。日本の短編は、そういったものとは少し違うように思う。藤田宜永、篠田節子、高村薫、志水辰夫といった短編の好手が、揃って、残酷であるよりもシミジミ方面に向かっている。そしてそのシミジミという部門が、現在はひどく厳しいハイテク世界なのである。なかなかそこらのシミジミ程度ではぼくらもおいそれとは共感してやらない。まあ、香納諒一は、そうした厳しい小説作法に挑む姿勢というのは、おそらく作家を志した当初から持っている人なのではないだろうか? ぼくがずっと追いかけているのは、実はその一点だったのではないのだろうか?

 そういう意味ではこの二冊の短編集によって香納諒一はその魅力をいかんなく発揮したと思う。次なる長篇がいまから楽しみだ。

(1997.11.25)
最終更新:2007年02月10日 20:59