デイブレイク




題名:デイブレイク
作者:香納諒一
発行:幻冬舎 1999.9.30 初版 1999.10.20 2刷
価格:\1,800

 自分の求めるエンターテインメントの方向性を探ると、自分が決して銃器や火薬の量の多寡によって小説の重さを量るタイプではないということがよくわかる。この小説は元自衛隊員が拠りどころを失って、札幌の周辺を彷徨っているうちに国絡みの巨大な謀略に巻き込まれているというストーリー。

 苫東開発の失敗や拓銀の倒産、シベリア開発など北海道の現在をよく調査して作ってあるプロットには香納諒一の成長がしっかりと感じられるが、ぼくのような札幌市民にとってはあまりにも身近だ。謀略もあり得ないものではないだけにリアルサイズの冒険小説であり、すぐそこにあるハードボイルドという印象が不思議だ。

 さてそうした大きな謀略にバイオレンスの数々が絡んでゆくのだが、あくまでも影の世界を生きる存在という形での国家職員、やくざ、ストリッパー。一癖も二癖もある人物と関わりながら、自衛隊上がりの二人の男が、自衛隊以外の新しい地平を発見するための戦いに身を投じてゆく。

 そこで語られた自衛隊は『亡国のイージス』と同じ骨を持つ組織であるが、あちらの作品と違うのは、思想は組織のものであり、自衛隊員たちは「国」というものの存在を信奉しつつも自分を失うことへの疑問の方にどこかでこだわるリアルな存在。ある意味で厳しくも断絶された国家職員の世界から、ふと飛び出たときに感じる孤独感、こうした感覚を描かせて巧いのが香納諒一なのだと思う。

 「国」の感覚のない世界へはみ出してしまった彼らは北米の山村を追い出されるマレルのランボーのようで危険でありながら孤独である。彼の感覚をもとに一人称で描いてきたのがこれまでの香納諒一であったように思う。

 しかしこの作品は三人称複数の作品であり、主人公にこだわらず多くの人間たちの孤独と動機と道程を描いている。そこにこだわったから何故か『亡国のイージス』と似た部分がある。でもここには多くの火薬は使われない。どちらかと言えば肉弾相打つ香納諒一的な格闘世界であり、戦いの意味では非常にスモール・サイズだ。『亡国のイージス』に対するアンチ・テーゼとして存在するような小説なのかなと、ふと思ってしまったのだが、それはぼくだけの感覚かもしれない。

 『風熱都市』の頃を思わせるノンストップ・アクション・ハードボイルドであり、実は作者あまりに久々の長編であったのだ。

(1999.10.26)