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幻の女




題名:幻の女
作者:香納諒一
発行:角川書店 1998.6.25 初版
価格:\2,000

 懲りに凝ったプロット、原りょう以来の丁寧に書かれた和製ハードボイルド、男の情感、暗闇の深さ、謎の深さ、事件のスケール。どれを取っても、ははあ、これまで三冊も短編集ばかり読まされてきたのは、この作品に打ち込んでいたせいなのだなと思わせられる。それほどに優秀な作品であると思う。北上次郎も新聞で絶賛したはず。

 しかし香納諒一という作家は、いつも一枚何かが足りない荒削りと言われてきた。それはテクニックだったのかもしれない。プロットでのもうひとひねりであったのかもしれない。作家はこうした疑問に真っ向から答えるようにこの作品に取り組んだのかもしれない。だからそれなりの完成度の高い作品にはなっていると、ぼくも思う。

 しかし、である。あまりに伝統を踏襲したイメージが強くはないか。直球勝負が過ぎて、何か今までの香納諒一の荒削りの輝きが鈍っては見えないか。こうしたオーソドックスなハードボイルド・スタイルというのは、もっと年の行った作家に任せたほうがいいのではないか? 失礼ながら原りょうの伝統芸(^^;)なら、彼の年期を感じさせるし、主人公もずっとオヤジ趣味しているし……で、許せてしまうのだが、香納諒一には、正直こうした伝統芸はあまり求めたくないのが、ぼくの個人的な希望。

 確かに過去『春になれば君は』というストレートで詩情豊かなハードボイルドをこの作家は書いてくれているけれど、『梟の拳』のような作家の内からにじみ出てくるような意欲が、今回は外濠を埋める方に使われてしまっているようでもったいない。こんな労力は、他にもっと活かしようがあるだろう、と言ってしまえば酷だろうか。

 幻の女。宿命の女/ファンム・ファタール。そのイメージは残念ながら作中それほど強く感じなかったし、主人公が思ったように、この物語を進めるには、タイトルでありながら女と主人公の結び付きは少し弱すぎるように思われてならなかった。最後はつい感動しそうだけど、よく考えたら取ってつけたような気もした。

 正直言って『梟の拳』『ただ去るが如く』の方が、ぼくの好みである。『石の狩人』のようなからっとした冒険小説も、また書いて欲しい。大人の小説を書くにはまだ少し早い年齢なのかなと感じさせられました。

(1998.7.27)