※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ただ去るが如く








題名:ただ去るが如く
作者:香納諒一
発行:中央公論社 1996.9.25 初版
価格:\1950(本体 \1893)

 読んだときは強烈だけど、少し時間を置くとけっこう内容は忘れてしまう、というのが香納諒一作品の共通項。その中でやはり時間が過ぎても印象に残っているのは『梟の拳』だから、あれが今のところのベストなんだと思う。というわけで『このミス』でリストアップしておきながら、この本の内容を忘れているという非常に無責任なぼくは、とりあえず本の中身を思い出すため、ぱらぱらとやってみました。

 なるほど思い出すわ思い出すわ。この小説やっぱりかなり面白かったのである。世の中の裏家業であるヤクザ出身で今は時々の強奪家業という、およそ普通の人生には縁のない男が、同類の人間たちと仲間を組んで、闇の世界を疾走するストーリー。毛色が変わっていると言えば、そういう闇稼業を普段は表に出さずに、必殺仕事人よろしく平凡で真面目な人生を送っているという点かもしれない。

 もともとがヤクザをやめたくてやめている男ではない。ヤクザという商売の任侠に魅せられた若かりし魂が、現実のヤクザ世界に幻滅して、組織を離れていったいきさつがあり、その当時の過去の亡霊が、新しい事件にひっかかり浮上してくるという、過去現在入り乱れての騙し騙され合い。このプロットがけっこういける。

 若い作者なのによくここまで書けると思うが、こういう大人っぽい作風ができてきたのも実は前作『梟の拳』からで、やはりあの作品は香納諒一大化けの一番だったのだと思う。若い頃から期待して前作注目して読んでいるだけに、この作家の成長と充実は実にわがことのように嬉しい。

 『海は涸いていた』には及ばぬながら大人の主人公をしっかり描いている点が嬉しい。巨大組織にひるまず挑戦してゆく姿勢が『奪取』にも通じるものがあって嬉しい。いろいろな面で、作者の充実ぶりをうかがわせ、趣味の良さを思わせる佳作だと思う。

(1996.12.29)