夜の海に瞑れ/「時よ夜の海に瞑れ」改題





題名:時よ夜の海に瞑れ
作者:香納諒一
発行:祥伝社ノンノベル 1992.7.20 初版
価格:\800(本体\777)

 この新人作家は間違いなく今年の、また今後の収穫だと思う。個人的には大沢在昌『新宿鮫』より遥かに好きなタイプの作家である。29歳の新人としてはなかなか素晴らしいところに視点を据えていると、つくづく感じたので、これはオススメしておきたいところ。今後も注目してゆきたい。

 まず主人公の中年探偵に、病人院搬送専門の私設ハイヤー業の中年悪友、そして謎めいた余命幾許もない老人組長に、元看護婦。この4人の道行きで始まる「深夜プラス1」ばりの導入部。そして疾走、調査、再会、対決とステップを刻んでゆくのだが、中弛みなしで読ませる、読ませる。少し出血大サービスぎみではないかなと心配になるほど、内容はぎっしり。

 入れ代わり立ち代わり現われる個性的な悪党どももまたいい。悪党どもと付き合わされているうちに、段々こちらが感情移入させられてしまうのにはほとほとまいった。降参である。特に若いヤクザ兄弟と主人公とのしがらみは、これが新人作家? と思わせるほどの味がある。

 おまけに老人組長の存在が第二次大戦中の満州・シベリアという広大な次元の蓋を開けてゆくから、スケール的にもまずよくやっているといったハードボイルドである。

 少し誉めすぎか。確かにまだ十分に練れていない文章なども時には目につくけれど、基本的には現代の日本エンターテインメントの良き方向を見定めているこのような作家は、ぼくとしては大事に見守って行きたい気がしてならないのである。

(1992.08.29)
最終更新:2007年02月10日 20:51