花見川のハック




題名:花見川のハック
作者:稲見一良
発行:角川書店 1994.7.5 初版
価格:\1,400(本体\1,359)

 わずか数冊だが、忘れられぬ短編集を残してくれた故稲見一良の最後の短編集。でも、遺作を集めたというだけではなく、「前書き」から最後の詩「鳥」まで作者の<遺書>とも見えそうな、素敵なまとまり方をしている一冊で、ぼくにはまたも忘れることのできそうもない大切な本になってしまった。

 7月に読み終えて、感想をなかなか書けないままに、稲見一良という作家の紡ぎ出したいく編もの物語と、子供たち、親たち……そういうものを心に止めてここまで来てしまった。ぼくはこういう物語を客観的にどうこう言えないまでのめってしまったのである。

 不良少年が、できのいい小賢しい子供に較べてどれほど魅力的で人間臭いのかを彼は語ってくれる。傷を負った者たちがどれだけ生に直裁に立ち向かわねばならないのかを、彼は語ってくれる。

 作者のあまりに生々しい闘病生活を匂わせる作品など、そのまま、季節の移ろいと織り混ぜて、あまりに貴重な一瞬であると思う。こういう本を読むと、改めていろいろなことを大切にしたくなってくる。一人でも多くの人に手に取っていただきたいと思います。

(1994.08.24)
最終更新:2007年02月10日 18:36