猟犬探偵





題名:猟犬探偵
作者:稲見一良
発行:新潮社 1994.5.20 初版
価格:\1,300(本体\1,262)

 短編集『セント・メリーのリボン』の表題作の主人公・竜門卓に、本書のような連作短編集の形でふたたび会えるとはよもや思わなかった。どうせなら、前作とともに一作の本にまとめてもらったほうが、よかったような気がしないでもないが、もしかしたら最初は連作にするつもりなど、作者の側にはなかったのかもしれない。

 『セント・メリーのリボン』を書いてみて、この主人公の設定に作者は自分の分身としてふさわしいと思われる姿を発見したのかもしれない。

 そんな具合に作者と主人公がしっくり合っている。猟犬探し専門の探偵。山小屋に一人暮らし。子供と弱者に滅法弱い。そんなワイルドで心優しいハードボイルドが、この本である。

 帯にある「胸ゆさぶる4つの感動」というように一作一作に血が通っている。ストーリー性としては多少弱い部分があるけれど、ツボを心得ているというか、どうにも胸キュン (←古いか (^^;)) なシーンを用意してあるんだな、これが。

 前作からずっと登場人物たちを引きずっているので、できたら全部一気に読めば、それなりにちょっとした長編小説的な味わいも出せると思う。

 そうそう、作中、どう見てもモデルはムツゴロウ王国であろうと思われるものが登場するのだが、主人公はどうもこの畑正憲をモデルにしたような人物を好きになれない。作中ではわりと悪人風に描かれているのだが、それを別にしても動物とべろべろ舐め合うシーンなどは、本当に動物と人間の関係をわかっている姿ではない……というようなこき下ろしシーンも見られる。

 実は自分も犬が好きなのでムツゴロウ王国などもよく見ているのだが、かなり残酷に病弱になった犬を見捨てるシーンがあり、「これは自然界の掟なので人間が助けてはいけないんですね」などと説明するシーンに自分自身憤りを感じたものである。作者はともするとこのあたりの学者面みたいな部分を蹴り飛ばしたくなったのではなかろうか……というのが、ぼくの推測であるのだけど……。

(1994.7.24)
最終更新:2007年02月10日 18:33