男は旗




題名:男は旗
作者:稲見一良
発行:新潮社 1994.2.15 初版
価格:\1,300(本体\1,262)

 考えてみると稲見一良の残した長編小説は『ソー・ザップ!』とこの作品と二冊だけなのだ。そういう意味では貴重な本なんだけど、どちらの長編にも共通して言えるのは、かなり荒唐無稽でファンタジックな物語であるということ。しかしこれは短編でも、稲見一良の一つの傾向として言えることではあると思う。ただ短編では目立たない荒唐無稽さが、長編だと限りなく目立ってくると言えるのかもしれない。

 かと言ってその荒唐無稽さがそれだけに終わらないところがこの作家の面目躍如たるところで、ぼくはこういう大人のメルヘンの存在を、しっかりと冒険小説の王道として認知してあげたいと思う。

 動かないはずのフローティング・ホテル《シリウス号》を、この社会のからくりから何処か外れた人々が寄り集まって出港させてしまう。そして広大な海に一枚の宝の地図をめぐって冒険に乗り出してゆく。こういうストーリーだから、少し物足りない量ではある。できることならこれで500枚ほど書いていただきたかった。惜しむらくは作者の側に時間がなかったのだ。

 同じような話として、 これも荒唐無稽な傑作冒険譚、 矢作俊彦、司城志郎共著『海から来たサムライ』を思い出してしまった。今どき海もの、しかも海賊が出てくるような本を書いてくれる冒険小説が貴重なだけに、こんな心ときめくような体 験を、われながらしばし忘れていたように思えてならなかった。

(1994.07.20)