コンタクト・ゾーン



題名:コンタクト・ゾーン
作者:篠田節子
発行:毎日新聞社 2003.04.30 初版
価格:\1,900

 篠田節子の久々の剛球ストレートの勝負球が出たぞ、という凄玉作品。『弥勒』『インコは戻ってきたか』と、海外革命巻き込まれ型小説を数年に一度の割合で書いてきた作者だが、正直『弥勒』の迫力に比べて『インコは……』は質量ともに衰えたか、と心配になるような物足りなさを感じたものであった。生真面目に書かれた作品ではあってもエンターテインメント性に欠けるし、何よりも冒険小説と呼び切れない部分が寂しかった。

 その意味では本書は今年一番の国産冒険小説とての面白さを孕んでいると言いたい。

 あの『弥勒』が帰ってきた。しかも『弥勒』を超える面白さとスケールを携えて。 超弩級の力作、超大作。あの『弥勒』に唸った経験のある読者であれば、この『コンタクト・ゾーン』を読まない手はないだろう。

 主人公はいやな性格をしている三人の女である。バカンスを取ってバカ旅行にやってきた三人のいかにも生意気な女性たち。彼女らがいかに嫌な奴らであるかに一章を費やしているくらい、篠田節子の筆は嫌な女たちを造形してゆく。

 さて舞台は太平洋上の独立国、その中の小さな島、その中のさらに一角である小村。あまり人の出入りもなく、言語的にも他とは通じない。村単位に区切られた原始そのものの生活は、共通言語として仕方なく英語を使う。

 出来事は例によって政変。三人のバカ女たちがこれに巻き込まれ、すわ『悪夢のバカンス』かというような漂流、無人島体験、ゲリラ組織との対決、村への潜伏といった、豪快でストレートな冒険を繰り広げる。その女たちが村の人々に感化されてどんどん変貌してゆく様が、これは篠田節子ならではの味わいなのである。

 島の歴史なんてどうでもいいのよねえ、政局不安定な国だからこそ超お得ショッピングができるんだし、リゾートホテルで現地の男たちをひっかけて遊んでいれば、あたしたちだけは絶対に無事なのよねえ。そんな女たちが、この小国の真実に触れるためには、こんなにも凄まじい日々を送らねばならなかったのである。

 政権交代にせよ、ゲリラ内部の主導権争いにせよ、小さな村に押し寄せてくるその戦火の足音は、少しずつしか迫って来ない。銃撃の音が聞こえたときには奴らは村にまでやってきている。あくまで住人たちの視点で見た革命。生活者である女たちが感じ取るレベルでの戦争。そうした村に文化の違和感を感じつつも徐々に愛着を持ち始める女たちの変化こそが、この小説の読みどころだろう。

 ずっしりと重い娯楽小説の傑作! 篠田節子の新たなベスト1が登場したと言っていいだろう。

(2003.06.30)
最終更新:2007年02月08日 00:04