妖櫻忌



題名:妖櫻忌
作者:篠田節子
発行:角川書店 2001.11.30 初版
価格:\1,400

 あたしゃ痩せても枯れてもホラー作家だ。そう豪語した篠田節子のインタビュー記事をこの作品が出た時期に、ぼくは新聞で読んだ。頼もしいと感じるより先に、おお、久々にホラーを書いてくれたかとの期待の大きさがあった。

 ぼくは篠田作品を大抵3つか4つに分類している。こんな具合に。

1.パニック、ホラー(『絹の変容』『イビス』『聖域』『夏の災厄』等)
2.異国、異文化(『ゴサインタン』『弥勒』等)
3.天才芸術家モノ(『カノン』『第四の神話』等)
4.女性小説(『女たちのジハード』等)

 だから久々に1の範疇にあたるピュアなホラーが読めると期待していたのだ。篠田節子はベテランになって文章がどんどん上手くなってきている。しかしそれとともに、これらのカテゴリーが互いに重複し始めて、どれもくっきりと分けられない、というような傾向になっているのも事実だ。革命モノ、異文化交流モノと期待された『インコは戻ってきたか』にしても、せっかくのハードな舞台設定にも関わらず恋愛小説の傾向が強く、女性小説の傾向が強いように感じた。

 そして本作。一言で言えば少しもピュアではなかった。どちらかと言えば3.天才芸術家モノの色の方が強く感じられる。現象的にはホラーめいたものではあるけれど、最終的な落とし前のつけ方はやっぱり芸術家小説なのである。こういう場合残念ながらホラーとしては少しも怖くない。

 肌がぞわぞわと来るような初期ホラー小説で篠田ファンになったために、女性小説や芸術家小説で篠田を離れてゆくという人は多いと思う。無論その逆も多いとは思う。でも作家がやはりホラー作家なのだと豪語するからには、物語の主役はもっとずっと「恐怖」が握ってくれなくてはいけないと思う。

 ホラー作家であって欲しいと思うけれども、あまり痩せたり枯れたりしてもらっては困るのである。

(2001.09.24)
最終更新:2007年02月07日 23:41