ハルモニア



題名:ハルモニア
作者:篠田節子
発行:マガジンハウス 1988.1.1 初版 1988.1.21 2刷 
価格:\1,800

 篠田節子の数多いジャンルの引き出しの中で、けっこう初期の頃からしぶとく書き続
けているのが芸術もの。絵画や音楽に関しての奇妙な感触の小説はけっこう多く書いて
いる。そうした芸術を題材にした作品群の中でもとりわけ優れた一冊が本書。

 『ゴサインタン』や『弥勒』のような秘境神秘譚に比べると物語の運び方は軽くてス
ムースなんだけど、それなりの興味を引き起こす起点といったものの据え方が超一流で
ある。

 篠田節子は非常に整合性の取れたプロットを、やわらかい文体で綴る作家だ。そうい
う意味ではこの作品は篠田節子の一方の代表作と言えるし、直木賞以降の作品に賭ける
意気込みが感じ取れさえするような、秀逸な心のこもった本であるとも言える。

 人間の脳の秘められた能力を語ろうとするとどうしても普通はそれなりの硬質なス
トーリーになりがちだが、篠田手法は逆のアプローチを試みる。ハイテク医学小説とか
超常能力小説とか言う言葉は似合わない。やはり芸術小説なのかな、と思う。

 そしてとても生真面目に人間の幸福や生死の問題を捉えている作家が、この篠田節子
であり、読後の無常感は、最近の篠田節の最たる部分だと言ってもいいかもしれない。
最近はこの読後感に身をもたせかけるのが、けっこう癖になり始めている。

(1998.09.27)
最終更新:2007年02月07日 23:29