美神解体



題名:美神解体
作者:篠田節子
発行:角川ホラー文庫 1995.8.10 初版
価格:\470

 ホラー文庫からの出版だからここに書くけれど、これがホラーだなんて言ったらここの会議室を楽しんでいる人たちはおこっちゃんではないかな、と心配されるほど、ホラーという形容が似合わない一冊、のような気がする。

 暗い劣等意識から屈折した変身(いわゆる美容整形である)を遂げた女主人公が、つくられた仮面のような顔を、自分のものにしてゆく過程を描く、いわゆる女性成長期としてしまえば、それなりに篠田節子らしい屈折した表現方法になったなと思われる。だがやはりホラーではないと思う。

 敵側から見ても、小池真理子『夜ごとの闇の奥底で』に似た設定のサイコと呼ぶにもおこがましい変態漢小説としか言い様がないのは、肝心の恐怖の提供者が幼稚であるからだと思う。

 女性作家はこのような女性小説(と敢えて呼ばせていただくけれど)を描けばいいというものではなく、敵側もきちんと読者に納得の行くように設定してもらわねばならないと思う。そういう点では、本作は大失敗小説ではないのか。

 短編の設定を無理矢理長編に伸ばしたような痕跡があるのもいただけない。篠田節子はこんなものじゃないはずだから、ぼくはこの際、きびしーく徹底的に批判的になってしまうのだ。これではホラー文庫の名が泣くよね。 

(1995.08.19)
最終更新:2007年02月07日 23:20