夏の災厄



題名:夏の災厄
作者:篠田節子
発行:毎日新聞社 1995.3.25 初版
価格:\2,000(本体\1,942)

 不思議な作家なので、続けて読んでいますが・・・・。これはあまり奇をてらわない正攻法の作品であるような第一印象。今まで感染ものといえば和洋問わずにけっこう傑作が出ていると思っていたから、敢えて書店で買おうという気にはならないでいたのだけど、世の中が篠田節子、篠田節子とあまり話題にするようだから、図書館で見つけたのを期に、読んでしまったもの。そしたら、まあ、リアリズム溢れる正統派感染サスペンスでありながら、これだけ面白いとは・・・・。

 『聖域』よりはぼくはこちらですね。何と言っても主人公不在という離れた視点から描いた埼玉県昭川市の物語である点に注目したい。川田弥一郎の『白い狂気の島』は狂犬病が猛威を振るった離島の前半が良かったのだが、後半は単なる推理ドラマに堕していてその点で大失敗作になっちゃっていると思うのだが、『夏の災厄』は堂々、災厄のみを徹頭徹尾追いかけていて、中盤、色気を出すかと思いきや、やはりこれも読者を裏切った地味めな構成でラストへ疾駆してしまう。いいなあ、こういうの (^^;) と思いました。

 離れた視点から客観的にある事件を描く・・・・ というとぼくは吉村昭の一連のノンフィクション・ノベルを想起するのだが、この『夏の災厄』はそれに似た集団小説として読めるし、何と言っても庶民故に信頼のできるリアルなタフさを秘めている保健センター職員たちが、こちらの感情移入をその格好悪さ故にかたくなに避けているようで、逆に頼もしかったりもした (^^;)。この辺のリアリズム、女性作家だなあ、とつくづく思ったりもする。

 今しきりにブラウン管で宣伝している、映画『アウトブレイク』なども観たくなってしまう、怖~いお話でありました。

(1995.04.27)
最終更新:2007年02月07日 23:16