アクアリウム



題名:アクアリウム
作者:篠田節子
発行:スコラ 1993.3.8 初刷
価格:\1,600

 ぼくの篠田節子最後の読み残しである初期長編。粒揃いの作品が多い中でもこれは上々の一作。まず発想がいいし、イメージが素晴らしい。この人の最大の長所は、ジャンルに捉われることのないその主題の独自性だと常々思っているだけに、この作品の独自性がまたひときわなので、嬉しくなってしまう。

 導入部からもう異常小説の始まりって感じで、ジャンルを素早く逸脱して行くその離れ業とイメージの豊富さにただただ度肝を抜かれる。文章が流麗で読みやすいのもこの人の特徴。これと言って奇を衒っていないだけにこういうのが巧い文章なのだなと、改めて納得させられること頻り。

 地底湖へのスキューバ・ダイビングと、そこで出会う死体、魚たち、不思議な象徴的な生き物たち、そして秩父スーパー林道建設と国策、エコロジー運動の闘士たち。主人公の水槽に囲まれた世捨て人的な生活。いやな女。マクロ的な視野とミクロ的な視野とを行き来する作家の筆致が読者を不思議な体験に連れ出してくれる。

 全体的なバランスとかまとまりとかいったものには欠けるかもしれないけれど、作者が本当に楽しみながら自由に書いている素材だなと思わせ、そこに読者も浮遊して行くことができる。篠田節子は不思議な作家だけど、その理由はやっぱりどこまでも独自で自由だということだからなのだ。 

(1996.05.26)
最終更新:2007年02月07日 23:05