ザ・ロング・サイド




題名:ザ・ロング・サイド
原題:The Wrong Side (2021)
作者:ロバート・ベイリー Robert Bailey
訳者:吉野弘人
発行:小学館文庫 2024.2.11 初版
価格:¥1,200


 マクマートリー教授シリーズ4部作の後、ボーのその後を描く二部作の後半部が本書である。新たな事件でありながら前作を引きずるかたちの展開で、マクマートリーとボーによる<けつの穴全開>シリーズ全作? の完結編であることで、本シリーズはとうとう幕を閉じる。「胸アツ」の強烈形容詞を携えて一気に読者の胸倉を引っ張ってきた感のあるスポ根リーガル・ミステリーの最終の一幕をまたもしっかりと味わってしまった。

 舞台は、KKK誕生の地のプレートが遺る曰くつきの街、テネシー州プラスキ。主人公は元アラバマ大フットボールチーム花形選手だった黒人弁護士ボーセフィス・ヘインズことボー。スタートは、ジャイルズ・カウンティ高校のアメフト・ゲームで始まる。試合後には、ロックバンド“フィズ“によるライブ・コンサートが予定されており、プラスキの夜は沸騰して見える。

 試合で予想通りの活躍を見せたオデル、試合後のコンサートでボーカルを務め会場の注目を浴びたブリタニー。エキサイティングな夜の後に遺されたものは、人気のない深夜のバス置場で殺害されたブリタニーと、酔って保護されたオデルだった。何が起こったのかわからない夜。オデルがブリタニー殺害犯として立件される道筋が見えてくる。われらがボーは、この事件に、またこの事件を待つ法廷でどのような役割を果たすのか? 本作の見どころは、ボーの体験してきたこれまでの運命が、彼をどこへ導いてゆくのか? 数作前で妻を失ったボーの再生の道はどこへ向かうのか?

 というわけで本シリーズの完結編ともなる本作。満員のフットボール会場。とことんジャイルズ郡プラスキがその舞台。前作でどこか遺恨の残りそうな結末を共にした検事ヘレンの意味深げなプロローグも気になる。シリーズ作品としての連続性を背景にしながら、単独作品としての練度もしっかりした法廷ミステリー、胸アツ主人公ボーとその子供たち。また彼の法律事務所を支える秘書と探偵のトライアングルによる連携プレイ。エンターテインメントのパーツをそこかしこに仕掛けた状態で迎えるシリーズ、クライマックスが本書である。

 過去の様々な出来事が追想されながら本書という結末に収斂してゆく大団円的ストーリーだが、何分真相が見えにくい。幾重にも視野を歪ませる仕掛けが用意されており、そこに絡む怪しげな人物なども複数配置。読めるようで読めない真相。予期不能の結末。シリーズがスタートとなった『ザ・プロフェッサー』からずっと熱い血で読者を引き込んできたシリーズ6作目にして最終作の本書。単独でも愉しめるが、やはり一作目から時間軸を辿って読んでここに辿り着く方が、読者としてはパーフェクトな味わいが得られると思う。ストーリーは同じ地平で繋がっているからである。過去作があって今がある。未読の方は是非、順序だててトライして頂きたい。既読者はさて次なるシリーズの邦訳を心待ちにしようではないか。

(2024.3.5)
最終更新:2024年03月17日 21:00