ハンティング・タイム





題名:ハンティング・タイム
原題:Hunting Time (2022)
著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver
訳者:池田真紀子
発行:文春文庫 2023.9.30 初版
価格:¥2,800

 ディーヴァーの主力シリーズのリンカーン・ライムが、全身麻痺で動けないヒーロー(現代版アームチェア・ディテクティヴ)であるのに対し、近年になって登場したコルター・ショウはひとところに落ち着くことのない動く探偵である。初期シリーズであるジョン・ペラムに似ているが、そちらはロケ・ハンターという職業で、本シリーズ同様、米国内のあちこちに活躍の舞台を移していた。作者としてはペラムの進化型として、コルター・ショウのようなひとところに定住しない放浪型主人公を新たに生み出したのではないだろうか。

 当初三部完結と言われた本シリーズの三作目タイトルも『ファイナル・ツイスト』であり、内容的にもコルター・ショウの父や兄との関わりを軸に置いた作品であったこともあったことから、四作目の本書の登場は嬉しいサプライズであった。ショウの出生から父による特殊教育、兄との関係など、プライベイトな側面までもが明らかにされた『ファイナル・ツイスト』だったが、この『ハンティング・タイム』は、そうしたコルター・ショウが過去の因縁から放たれて、またも自由に仕事を請け負い、新たな土地フェリントン(架空?)を舞台にその個性的な活躍を見せてくれる、まさに超の付くほどのエンタメ作品である。

 ページを開いたら、止まらなくなる面白さは、そもそもディーヴァーの得手とするところだが、本作は近年のディーヴァー作品の中でもちょっと群を抜いたページターナーぶりを発揮しているように思う。それというのも、いつも追跡の側に立つコルター・ショウが、本作では命を狙われる母と娘を守るというガードマンの役割に追われる。彼らを追うのは、三年間の刑期を終えて娑婆に出て来たばかりの元夫であり父であり元刑事でもあるけっこう凄腕のジョン・メリットという不気味なキャラクターで、その複雑な人物造形は、本作の肝であるかもしれない。ジョンの他、二人組の残忍な殺し屋の追跡も受けることとなり、八方ふさがりのショーと母娘の逃避行は、母と娘と、父(追跡者)との愛憎の軋轢なども重奏的に加わって、実に読みごたえがある。

 今回はのっけからの逃走・追跡劇。しかも劇中、どんどん加わってゆく新たなキャラや、見た目通りではないキャラクター像と、思っていた通りではない数多くの真相により、読み手を嘲笑う如き騙しのテクニックを駆使しつつ、どのページも相当なノンストップ・アクションで終始している。「ドンデン返し20回超え(小社調べ)」との帯の宣伝文句が告げるように、ディーヴァーの最も得意とするところの作品である。アクションシーンも多いが、全体を締める緊張感がたまらない。久々に凄まじいまでのページターナー作品に出くわした思いである。

(2023.12.30)
最終更新:2023年12月30日 16:03