贋作師
題名:贋作師
作者:篠田節子
発行:講談社文庫 1996.1.15 初刷
価格:\580
一時篠田節子を読み漁ったときに、どうしても手に入らなかった読み残し二冊のうちの一冊。ちなみにもう一冊は『アクアリウム』。たまには読み残すということも「残り物に福」で、今回は、作者が文庫化に当たってきちんと加筆修正しているものであるとのこと。なるほど、デビュー作『絹の変容』の次作にしては、少しも作品が古臭く感じられない。ばかりか、むしろいい新作に出くわした感覚で一気読みだった。
この作品は絵の修復家が主人公ということで『変身』などの芸術小説につながるのかと思いきや、むしろ『美神解体』につながるホラーっぽさを骨子にしたミステリー。もちろん作者の最低の作品とあえて呼んでしまう『美神解体』に較べればはるかに優れものの一冊。
例によってぶっきらぼうな中年独身女性が主役で、これに絡むたくましいゲイの彫刻修復家の方とのデコボコ・コンビがもう篠田節してるのだ。文章の読みやすさ、ストーリーテンポの良さの裏に、いつものように作品の広がりを感じさせるのは、主人公も作者も自立した大人の女性の眼差しで世界としっかり対峙しているせいなのだと思う。小池真理子の文章はしっとりしていて巧いものだと思ったが、篠田節子の方
は、プロット+素材と言っておきたい。
作者の側に書きたいことがしっかりあるという意味でも、いつも好感を持てる作家である。
こう書くと品の良い小説のように思われちゃうかもしれないが、事実はけっこうグロテスクな内容で、気色の悪いシーンも続出です。作者の好きそうなクローネンバーグの傾向、とまで言っておこうか。
(1996.03.09)
最終更新:2007年02月07日 22:54