嘘と聖域




題名:嘘と聖域
原題:Legacy Of Lies (2020)
作者:ロバート・ベイリー Robert Bailey
訳者:吉野弘人訳
発行:小学館文庫 2023.2.12 初版
価格:¥1,080



 マクマートリー教授シリーズ4部作の後を引き継いだのは、彼の教え子ポー・ヘインズだった。作中の弁護士稼業を引き継いだのではなく、シリーズ主人公を引き継いだという意味である。ポーはマクマートリーのラグビーと法律の教え子であるわけだが、マクマートリー・シリーズでは、ポー以外の教え子も数人(リック・ドレイク、レイレイことレイモンド・ピッカルー、パウエル・コンラッド、ウェイド・リッチーなどなど)副主人公として活躍していた。ここでポーが主役を引き継いだのには、いろいろなわけがあったろう。

 いずれにせよポーが主役となれば前シリーズで、二作目のサブ主人公を担ったポーの物語『白と黒のはざま』の強烈なインパクトが蘇る。そして本作は、『白と黒のはざま』の積み残しを引き取る物語とも言える。家庭を失って絶望のどん底で足掻いていたポー・ヘインズが、心身共に才気を果たすべく今一度、地の底から立ち上がる物語でもある。

 『白と黒のはざま』の舞台となる町についてぼくはレビューでこう書いている。

「プラスキの現在の住人はKKK誕生の町であることを恥じているらしいが、今もなお残る差別感情は現在もアメリカ全体に影を落としてやまない。さらに白黒はっきりしない多くの人物たち。」

 そしてこの構図を現在もそのまま継続する町を背景に、利権や政治腐敗に歪みつつある司法の裏の闇を抉り出すのが本書の醍醐味であるが、前半は、司法の場にすら出ようとしない過去に呑まれる主人公ポーが、闘いに目覚めるまでを描く。彼の手を引きずり上げるのは、鬼検事長のヘレン・エバンジェリン・ルイス。彼女自身が、本作では殺人の容疑者として被告席に立たされてしまうが、弁護士としてポーを指名するという逆転の構図で、新シリーズは驚愕のスタートダッシュを見せる。

 前作で殺し屋ジムボーンによって破壊された(詳細は未読の方のため省略)ポー一家のその後と、司法の場へのカムバックに至る経緯で前半はほぼ終始する。また腐敗した町プラスキそのものも荒療治が必要なまでに病んでいるという要素も本書のミステリアスな部分を支える構図として重たい。

 しかしポーが立ち直るに至る物語は、まるでスポ根ドラマそのもので、いつもの司法ミステリ要素プラス、アクションに加え、黒人主人公のポーでなければ表現できない根強い差別の歴史に彩られる南部の町そのものが印象的に描かれてゆく点で無視することができない。司法の欠陥をも鋭く突きつつ、作者は南部リーガル胸アツドラマをこの新たなシリーズ再出発作品とも言える本作に込めており、読みごたえは期待に違わず、たっぷりという印象。

 旧シリーズを引き継いで、新たな地平でのアメフト・チームOBたちの再集合、再活躍が期待される新シリーズ、早速まずまずの手ごたえを感じる重厚な一作である。

(2023.4.4)
最終更新:2023年04月04日 15:17