スキン・コレクター



題名:スキン・コレクター
原題:The Skin Collector (2014)
著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver
訳者:池田真紀子
発行:文藝春秋 2015.10.15 初版
価格:¥2,350



 リンカーン・ライム・シリーズもこれで11作。『ボーン・コレクター』に続く<コレクター>というタイトルなので、気になっていたのだが、やはり初代リンカーン・ライム登場篇となった『ボーン・コレクター』に誘拐され救出された少女パム・ウィロビーが成長して再登場するという点で、やはり関連付けはあった。そればかりか『ウォッチメイカー』の悪役を務めたリチャード・ローガンもまたこの作品のメインストーリーを縫うようにして存在感を見せてくれるので、シリーズ作品のサービスも充実した十字路的作品に仕上がっているように思う。

 本書でも犯罪者側からの視点で描かれる人狩りのシーンは濃厚なインパクトに溢れている。タイトルにあるスキンは文字通り皮膚である。刺青師を伺わせる殺人鬼が突然アンダーグラウンドに登場し、かなりのペースで連続殺人を狙う。狙うと言ったのは、このシリーズには珍しく未遂により逃げおおせる被害者もいるからである。

 サックスとライムのコンビネーションはいつにも増して強くタフで、時には甘く、そこに『ボーン・コレクター』からは随分と成長したパム・ウィロビーが加わって、捜査基地は本作ではホームドラマを思わせる一種不思議な空気に彩られる。他にも常連メンバーの一人が窮地に陥り入院と治療を余儀なくされるなど、シリーズならではのバリエーションに満ちている辺りも、シリーズ・ファンにとっては読みどころとなる。

 しかし何よりもメイン・ストーリーのツイストの巨きさが、本作の特徴であろう。刺青師による連続殺人と見えるメイン・ストーリーが次々に異なる色に染まって、真実が一体どこにあるのかがわからなくなるほどのストーリーのどんでん返しは、久しく見られなかったディーヴァー節を文句なしに味わえる一編となっている。ディーヴァーのツイストがこれでもかとばかりに謳歌するある意味独壇場。マジック・ミラーのようなプロットに目が回るほどだ。

 何よりもツイストのスケールが凄い。犯罪者の動機、被害者選択の方程式などがどこにあるのか、目眩がするほどの転換を開始する後半部において読者が読まされていた世界が思わぬ方向に大転換してゆくこのディーヴァー的快感ワールドこそががシリーズの目躍如たるポイントである。前半には決して見られなかったスケール感が爆発するパワーという点においては、久々にパワフルな読ませ方を強いられてしまった。騙される快感に導かれ、いつの間にかディーヴァー作品の引力に引き寄せられてしまう自分を発見する。

 前半のスローな展開を信じるなかれ。あちこちに仕掛けられた罠は後で存分に振り返ることになるだろう。ディーヴァー・パワー全開の作品として代表作的一冊である。おススメ!

(2023.02.26)
最終更新:2023年02月26日 16:26