死亡告示 トラブル・イン・マインド II




題名:死亡告示 トラブル・イン・マインド II
原題:Touble In Mind (2014)
著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver
訳者:池田真紀子
発行:文藝春秋 2022.5.10 初版
価格:¥1,200



 短編集『フルスロットル』に続く『トラブル・イン・マインド』二分冊の後編。前編が、リンカーン・ライムの他、キャサリン・ダンス、ジョン・ペラムなど懐かしの主人公たちが活躍するのに比して、こちらは独立作品がほとんど。標題の『死亡告示』のみがリンカーン・ライムものだが、本書中では最も短いショートショートに限りなく近い短編。でもライムのアームチェアが表紙を飾っている。不思議だが出版社の意図が感じられ、それもまた理解できる。

 最初の一篇『プロット』は、スリラー作家の死を巡る短めの一篇だが、こちらと『死亡告示』は兄弟のような作品に見える。それと書く側の内なる深淵を覗き込んだら、えっ? となるようなひねりプロット。皮肉な真相には喜劇の一面も見える。

 次の『カウンセラー』は、オカルト&サイコ風味の語り口で始まる、とても奇妙でスーパーナチュラルな作品。こうした変化球も言わば広義でのディーヴァー節と言えるだろう。聞いたこともないような、全く奇妙なストーリーなのである。

 『兵器』はディーヴァーらしい大上段に構えた仕掛けとタイムリミット型サスペンスがブレンドした玩具のような作品である。それにしても結末がディーヴァーらしく後味が良い。

 『和解』は、父と子がどのように和解できるのか、はたまた距離が置かれたままの人生で終わるのかを、描くヒューマンなドラマ? さあ、そんなストレートに終わらないのが、ディーヴァーのおもちゃ箱的仕掛け。騙される快感は、本当にどこにでも潜んでいるのだから。

 『死亡告示』は、ディーヴァー死す、との死亡告知がタイトルになった実に小さく、かつ興味深い掌編。

 さて最後の一作『永遠』だが、これが凄い。本書の半分を占める230ページとなれば短編と言えるだろうか? ぼくの感覚では、限りなく長編に近い中編小説である。そして、長編小説なみにキャラが立っているので、是非、いつかシリーズ化して頂きなくなるような魅力的かつ個性的主人公なのである。

 その主人公とは数学の天才。何事も数学に置き換えて解き明かすその徹底ぶりが面白い。別に数学が苦手で嫌いなぼくのような読者でも楽しめたのだから、この主人公は是非再登場して頂きたい。その相棒刑事もなかなかいいやつでバディものとしても行けるし、犯罪者の側も、『カウンセラー』にも似たオカルト的サイコたちなので、この双方のツイストぶりが何とも傑作の匂い芬々といった空気なのである。

 短編集の掉尾を飾るこのラスト作品『永遠』を読むためだけでも本書の一読をお勧めしたい。ディーヴァーは、どこまでもディーヴァーなのであった。

(2022.10.13)
最終更新:2022年10月13日 15:05