ファイナル・ツイスト





題名:ファイナル・ツイスト
原題:The Final Twist (2021)
著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver
訳者:池田真紀子
発行:文藝春秋 2022.6.30 初版
価格:¥2,600

 コルター・ショー・シリーズ三部作の、いよいよ待ちに待った大団円。このシリーズの特徴は、何と言っても常に動き回り続け、父譲りのサバイバルのテクニックを駆使して悪と対決するという主人公の個性である。

 ディーヴァー作品の代表格、アームチェア・ディテクティヴの主人公リンカーン・ライムとは、まさに真逆である。それでいながらライムもコルター・ショーも、極端なまでの個性で娯楽小説の王道をゆくように事件に向き合ってゆくというキャラクター造形で、読者をとことん楽しませてくれる。

 三部作の一・二作目は、それぞれに独立した物語でありながら、コルター・ショーの父や兄のことは伏せられ、ぼかされ、ほのめかされていた。父を殺したのは兄ではないかという、もうひとつの大括弧でのミステリを暗示しつつ、コルターと言う主人公の仕事である失踪人探しを二つの事件の追跡により、二つの作品として書き綴ってきたわけだ。

 そして何よりも三作目にして一端大団円を迎えるのがいよいよの本書。やはり三作とも甲乙つけ難い面白さであるとは言え、この作品は別格の面白さだった。それはそう。ここまでの作品でさんざん暗示されて気を持たされていたコルターの家族に関わる真の敵の姿を、そして父の死の真相を本作では明らかにしてゆくのだから。

 何よりも兄ラッセルが満を持して登場するのはエポックである。コルターとは違う性格というところが面白いし、今回はダブルヒーローでの巨大悪との闘いとなる。

 ミステリーの核となる部分は、百年前の危険な文書をめぐるお宝探しの面白さである。そこに巨大悪の手先が次々と仕掛けてくる攻撃、というスリリングなアクション部分が相まって、ライム・シリーズよりも相当に迫力のあるファイティングやカーチェイスシーンなどが目立つ。

 舞台がカリフォルニアというのもの、ニューヨークのライムに慣らされたディーヴァー読者にとり新鮮である。こちらのショー・シリーズは前作が人里離れた山中でのカルト教団潜入の物語だったが、今回は海に面した都市部に展開する情報戦。このシリーズは、とりわけ舞台となる土地が毎回変わるところも有難い。初期シリーズのロケハンター、ジョン・ペラム・シリーズがそうであったように。一つ所にじっとしていられない主人公、コルター・ショー様々である。

 このシリーズがきっかけとなって、ぼくのディーヴァー過去作品読み返し活動がなぜか復活中。ツイストの連続にいよいよ飽きてきた頃を見計らって、ディーヴァーの方が劇的に作風に変化をつけてきた上、かくもラディカルなヒーローを作り出して勝負してくるのである。その作風転換にやられました。ディーヴァーの繰り出すマジカルな手法には、今後とも遠慮なくあやかり続けたいと思う。

 なお、三部作が終わって本シリーズは次のフェイズに入るとのこと。ディーヴァーとコルター・ショーは今度はどこにぼくらを誘ってくれるのだろうか。

(2022.7.23)
最終更新:2022年07月23日 16:41