ブラック・スクリーム



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題名:ブラック・スクリーム 上/下
原題:The Burial Hour (2017)
著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver
訳者:池田真紀子
発行:文春文庫 2021.11.10 初刷 2018/10 初版
価格:上¥890/下¥930

 ディーヴァーは変わった? 最近作の『魔の山』などの一匹狼主人公コルター・ショーは、初期シリーズ主人公のロケ・ハンター、ジョン・ペラムのようにダイナミックな移動を嫌わないキャラクターだが、まさか本シリーズのリンカーン・ライムまでが、『ゴースト・スナイパー』でのバハマに続いてイタリアにまで移動して活躍してくれるとは!

 しかもバハマは近距離の一部移動だったけれど、まさかイタリアはナポリにまでやって来て、現地の捜査陣と組んでの科学捜査で活躍してくれるなんて予想外もいいとこだ。

 現地で起用される準ヒーローが、少しおとぼけキャラではありながら純朴極まりない好感度満点の森林警備隊巡査エルコレ。このキャラが従来のシリーズのパターンを打ち破ってくれる純朴さで、凄く良い。

 しかも文庫版は、下巻にサービス短編が付いていて、イタリアでの捜査の後のリンカーンとアメリアの結婚旅行と、そこにまで勃発する事件、さらには電話での登場だが、すっかりリンカーンの現地相談役みたいになったエルコレ!

 全体に殺伐としていない空気も本作の特徴である。音楽好きの犯罪者役もいつもと違って憎みきれないところがあって、現地捜査陣や風光明媚な舞台装置など、本シリーズにはあまり見受けられなかった穏やかさが感じられる。

 むしろヨーロッパならではの地勢的な背景を元にした移民受け入れ政策、そこに発する様々な問題など、現実の国際事情や警察組織のアメリカとの差異など、いつもならざる作品の個性が出て興味深く、シリーズ中相当に個性を発揮してくれた作品であるように思う。

 いつものスリリングな語り口と異なる部分へのご批判もあろうが、長らく続いているシリーズだけにこの変化球はぼくにはとても有り難かった。またどこかで純朴な南イタリアのエルコレと再会できる日を楽しみにしたい。

(2022.05.28)
最終更新:2022年05月28日 13:03