償いの雪が降る




題名:過ちの雨が止む
原題:The Shadows We Hide (2018)
著者:アレン・エスケンス Allen Eskens
訳者:務台夏子
発行:創元推理文庫 2022.04.28 初版
価格:¥1,260


 『償いの雪が降る』に続くジョー・タルバートのシリーズ第二作。前作では少女暴行殺人罪で有罪となった過去を持つ末期がん患者をインタビューする大学生として、過去の事件の真相に取り組む姿を見せていた主人公ジョーだが、彼を取り巻く過酷で特殊な家族環境は、作品に重厚感と心震わせるヒューマニティを与える独特なスパイスであった。

 本書でもそれら家族の問題を取り上げるばかりか、見知らぬ父が被害者となった殺人事件を息子が追う、しかも家族の過去を掘り出しつつ、現在の再生を願うというタルバートの第二の決定的な時期と事件と取り上げて、家族と言う問題、差別や欲といった部分にまで詰めてゆく非常に厳しい物語となっている。

 それでもジョーの一人称文体で綴られるページの重さや、誠実さはそのまま読者に感性や心理の浮き沈みを伝える武器となっており、この作家の優れたセンスを窺わせつつ読者の心を摑んでくる物語であるところは、毎作変わらない。アレン・エスケンスは、信頼性の置ける作家としてマークすべき一人である。

 この作品では主人公が、見知らぬ父の死を謎含みの殺人事件として取材するとともに、自分探しの旅、また人生の転換点となる糸口としても、最重要視していることがわかる。その捜査の中で、同棲中の恋人との将来、落ちぶれた母の再生、自閉症の弟を含めての家族全体の再生などの大きな課題とも取り組んでゆく。

 とりわけ兄弟が、大きな変化を遂げようとしている母と再会するシーンの心にこれでもかと言うくらい響いてくる。久々に心を打たれました。凄い作家である。人間性の重みをこれだけ持たせながら、物語の持つ娯楽性、ミステリとしての仕掛けや幾重ものツイスト、全体の起承転結のしっかりした構成、どれをとっても一流の作品である。

 弁護士を引退して作家として成功をスタートさせた作家アレン・エスケンス。追いかけ続けねばならぬ作家がまた一人、ぼくのリストに色濃く書き加えられる。

(2022.05.11)
最終更新:2022年05月11日 14:32