天使の傷





題名:天使の傷 上/下
原題:When She Was Good (2020)
作者:マイケル・ロボサム Michael Robotham
訳者:越前敏弥訳
発行:ハヤカワ文庫HM 2022.3.25 初版
価格:¥1,100

 あまり日本では翻訳されていないのだが、どの作品も外れなし。オーストリア人だがイギリス在住経験もある著者ロボサムは、北欧ミステリーにも似たキャラクター中心の決め細かさを備えた文句なしにおススメ作家である。このレベルで安定して走り抜けている作家なので、本来もっと読まれる需要はあるはず。未訳作品の日本市場での販促は本邦の出版社一同に、是非とも加速化して頂きたい。

 さて本書は前作『天使の嘘』シリーズの続編である。前作では特異極まりないヒロイン。嘘を見破る特殊な能力を持つイーヴィ。死体と一緒の塒で生き残っていたのを幼児の時に発見された出生不明の少女イーヴィーの魅力と謎の部分は、本作である程度解明されてゆくことになる。

 無論、イーヴィとのコンビであるサイラス。家族全員を狂気の兄に殺害された無残な事件の生き残りであり、臨床心理士であるサイラス。彼の造形も本作ではまた深まってゆく一冊となっている。前作読者であれば垂涎ものの何とも楽しみな一冊である。

 例によってイーヴィとサイラスという二人の語り手による物語運びは前作同様、巻置く能わずのリーダビリティ。何より生を求める傷ついた二つの心の成長の物語であり、愛を求める彷徨のドラマであるように見える。熱さでいっぱいの魂の叙事詩だ。

 特に最終章は、泣けること請け合い。三作目続編もあるとのことだが、ここまでの二人の主人公の過去を清算に運び込む物語は、本作までの二作で、一端完結する。ただ、ここまで魅力的な二人の主人公をここで使い捨てしてしまうのもなかなかもったいない。これだけのオリジナリティを持った印象的なキャラクターはそうそうないはずである。

 なのでシリーズ続編という三作目も、首を長くして待ちたいと思う。また本主役コンビのみならず、未読独立作品もこの作家は是非読まねば。ロボサム、の名は、ぼくの熱気の中核に、永遠に刻み込まれてしまったと思う。

(2022.4.20)
最終更新:2022年04月20日 15:31