償いの椅子


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題名:償いの椅子
作者:沢木冬吾
発行:角川書店 2003.04.25 初版
価格:\1,900

 骨のあるクライム・ノヴェルである。この新鋭の作品は『愛こそすべて、と愚か者は言った』(新潮ミステリー倶楽部)に続く長編第二作。1970年生まれの若手作家であることが信じられないほどに内容が濃くて太い。導入部の文章では若書きの印象が強いのだが、書き進むうちにどんどんこなれてゆくばかりか、読者を唸らせるような言葉が頻出して来る。書き進むうちにも作家的進化が窺えるほどに、今後の成熟が楽しみな作家だと思う。

 五年ぶりに車椅子に乗って姿を現わした能見亮司。五年前に彼とともに死んだ秋葉は実は生きているのか? 五年前のつけを清算しに戻ってきたのか? 警察内にある特殊チームと民間から徴用されたメンバーたち。能見を中心にきな臭い空気が漂い、闇世界は一気に張り詰める。

 車椅子というハンディを終始背負い、妹、甥、姪という肉親との絆を背負い、なおかつ五年前からのターゲットを求めて準備を進めてゆく主人公能見の描写が分厚い。彼の空白の五年間を調査する不適格者桜田や、警察内特殊チームの現リーダー南条。胡散臭い動きと闇世界の暗闘の中心を綱渡り的に生き延びてゆく男たちの生きざま。

 同時に描かれる少年少女たちの世界やドメスティック・バイオレンスの家。五年前の成り行きで弱い心を抱えて保身に走る東田の店。五年前の連中のたまり場だった加治の店。準備が整いつつある倉庫。さまざまな舞台となる場所すらもがしっかりと描かれ印象に強い。

 中でも星を眺める山上の世界のイメージは能見という男とその生きざまを語る上でこの作品の白眉である。復讐、皆殺しという、まるでマカロニ・ウェスタンのような活劇世界を現実世界へ繋ぎ止めるためにこの作者が払った惜しみない努力、つまり一貫して人間描写にこだわってゆく姿勢が素晴らしい。

 一つ間違えれば荒唐無稽とも言えるクライマックスの殺戮シーンのために徐々に力をため込んで盛り上がってゆく人間たちの葛藤、集中……このあたりの語り口が素晴らしいのである。この姿勢を貫くとすると、この作者目が離せなくなりそうな存在である。

(2003.7.3)