暗殺の幕末維新史 桜田門外の変から大久保利通暗殺まで



題名:暗殺の幕末維新史 桜田門外の変から大久保利通暗殺まで
著者:一坂太郎
発行:中公新書 2020/11/25 初版 2020/12/15 2刷
価格:¥820




 戦争は暴力そのものなのだ。実は政府が入れ替わる明治維新期は、歴史的に最も暗殺が行われた時代であるそうだ。本書は、そうした暗殺事件を多数取り上げて、それぞれの暗殺の理由というところに特化して語る一冊である。

 ぼくには維新期の暗殺者ということで言えば、映画や大河ドラマで勝新太郎や萩原健一の演じた「人斬り」岡田以蔵のイメージが強く、彼の処刑シーンはどちらでも印象深かった記憶が残る。だが、人斬り以蔵にせよ、人斬り新兵衛にせよ、捕縛されるまでになかなか捕まらぬプロの殺し屋であったことは今更ながら異例に近いようにすら思える。

 むしろ複数思想犯による斬殺とそのあとに目立つ場所に晒される首級、そして暗殺者たちも刑場の露となって消えてゆくことが、維新の暗殺史のスタンダードのようである。殺せば処刑されるのだ。

 しかし、中には、生き残る殺人者もいて、それらが実は明治政府の中心人物であるばかりか、日本国首相として生き延びてゆく者すらいる。また首相ですら、また凶刃に倒れたりする、というテロまたテロという世界がこの時代の狂気の強さを表していて驚かされる。

 暴力でしか解決できないサムライ、剣の文化であった。外国人を襲撃するという攘夷行動も目立つが、それらが国際戦争に直結しなかったのは今更ながらあまりにも幸運であったとしか思えない。それだけ各国の日本との交易の旨み、反して国際情勢の緊張が東アジアを席捲していたに違いない。

 背筋が凍るのを通り越して、胃の具合が悪くなりそうなほど残酷な、山のように連続する暗殺行動、それらを次々と記録した本書を通して、日本の、否、世界の人間の未来に警鐘を響かせたくなる、まさに心が寒くなるような、それでいて読むべき一冊なのであった。

(2021.10.26)
最終更新:2021年10月26日 21:46