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ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT]



題名:ジウ 警視庁特殊犯捜査係[SIT]
作者:誉田哲也
発行:中央公論新社 C・NOVELS 2005.12.15 初版
価格:\1,000

 『アクセス』では携帯、パソコン、ネットを使ったホラーを、『疾風ガール』ではロック少女を主人公にしたミステリーを、本書では警察小説を、と精力的に様々なスタイルに挑んでいる若手作家である。どの作品でもまず見られるのは、成功しているかどうかはともかく、面白い小説を書こうという姿勢である。若手作家の時代にしか試すことのできないことを、遠慮なく引き受け、荒っぽいながらも疾走してやれ、という心意気が感じられる。

 まだまだ下手だ。文章も大したことがない。手離しで人に勧めようとも思わない。でも何かがある。『疾風ガール』は、この作家にして一番しっくりきた作品であった。

 本書は、やはりというか、一読して荒っぽさが目立つ。作品の完成度という意味では、お世辞にも褒められた印象ではない。しかし、随所にこの作家の持つエネルギッシュな姿勢が見え隠れするあたり、やはり抑えておきたいとのこだわりが生まれるあたりが、ちと不思議だ。

 二人の性格的には相反する女性捜査官の対比が、本書の読みどころである。むしろこの作品という単発ものを、二人の女性刑事はどちらもはみ出てしまっている。つまり、シリーズ作品の導入章という風にしか見えないのだ。逆に言えば、これっぽっちのページ数に収まるようなキャラクターではないだろう、ということなのである。

 それとも彼女たちは、今後の成熟してゆくであろう彼の作品のための原型みたいなものなのだろうか。

 門倉美咲は、若手だが天性のネゴシエイター。優しく、魅力的で交渉力がある。伊崎基子は戦闘サイボーグのような女。破滅的で、愛情に欠けたところがあり、闘いを求めてやまない。二人は、犯罪者に対し、まるで反対の行動を取る。それは、童話『北風と太陽』のようでもある。

 しかし本書はその構図を最後まで生かし切っていないように見える。しっかり整理仕切れていない。他のキャラクターにしたって同様だ。二人がそれぞれ思いを寄せる職場の同僚たちも、寸止めで描き切っていない。物語の参加の仕方が少し浅い。思わせぶりな人間たちが、チョイ役で退場してしまうのが惜しくもある。

 タイトルにもなっているジウは、本書中では最も好奇心を刺激してくる出色のキャラクターだ。その個性を、とにかくこの作家は作中で、生かし切らないでいる。どちらかと言えばすべてのキャラクターを取り散らかしている。

 魅力的になり得るキャラクターが中途半端に使い回され、呆気なくアクションの餌食にされたり、行方不明になってしまう。とにかく明確にならぬまま舞台を去ってゆく。この見事なまでの勿体なさは何だろう。だからこそシリーズならば、納得がゆくのだ。次があるということであるのならば。でも単作であるならば、はっきり言って許し難い読者への罪である。

 この作者、実は既に新作を出している。『ストロベリーナイト』。またも女性刑事の活躍する警察小説だそうだが、本書の続編ではなく、新しくヒロインを造形しているようだ。

 キャラクターの性格や心理の描写に独特の切れ味があり、一方で緊迫感のある非情なバイオレンスを展開もしてみせる。才能のきらめきを随所に感じさせるだけに、使い捨ての物語ではあまりに惜しい。それだけにしばらくは追いかけてみたい。ジウのことも、もっともっと知りたいと思っている。

(2006/03/12)