疾風ガール



題名:疾風ガール
作者:誉田哲也
発行:新潮舎 2005.9.30 初版
価格:\1,400

 『下妻物語』は現代の日本の少女をとことん戦うキャラクターに変えて痛快無比だったけれど、ここに今度は小説というかたちで、少女ヒロインがまた一人誕生した。現代日本のメディアに露出される少女たちの馬鹿さ加減を毎日見せつけられていればこそ、こうしたタフガイならぬタフガールの登場が、おじさんたちの救いになっているのかもしれないけれど。

 夏美はインディーズ界をメジャーめがけて駆け上りつつあるロックバンド、ペルソナ・パラノイアの天才的ギタリスト。彼女の一人称と、芸能マネージャー祐司の三人称を交互に綴りながら、物語はエネルギッシュに進行する。

 この作家『アクセス』でホラーサスペンス大賞で特別賞を受賞している。その作品については、欠点も見られるものの、こと現代を描く才能という意味では、きらりと光るものを確かに持っていた。本書では、そのあたりを存分に発揮し、久作とはがらりとジャンルも空気も変えて、一気に勝負をかけてきた。

 何よりも魅力的なヒロイン造形がこの作品の成功の核である。バンド仲間たちの個性も、芸能プロダクションやライブハウスの大人たちについても、しっかりした人間描写があるからこそ、世界が活き活きしている。

 ロックバンドの世界に関する情報の質についても興味深く読ませてもらった。

 ジェン・バンブリー『ガール・クレイジー』(2000年、河出書房新社)を読んだときに、少女魂のしなやかさに惚れ込んで、独り絶賛してしまったことを久々に思い出した。『男殺しのロニー』のように、殺し屋たちを手玉に取る大人の女の格好よさも気持ちがいいが、大人になりかけていない(だからこそまだなんにでもなれる)少女の疾走ぶりは、さらに嬉しい。

 元気をもらえる本であるけれど、十代ゆえのデリカシーを思い出させてもらえる、ちょっと痛みを伴って、じんわり涙腺を刺激される作品でもあったりする。この微妙な空気の流れを描ける作家っていうだけで、ぼくにはとても貴重な存在という気がする。作家はこうでなければ、という感性が確かに存在することへの安心感とでも言おうか。

 一応青春小説みたいに扱われているが、広義でミステリーと言えると思う。謎を探り出す探偵役を夏美と祐司がこなしているといった構図に見えないこともない、という。

 ちなみにカバー写真が気になる。中ノ森BANDという実際にる少女バンドなのだが、そのギタリストがこの作品のイメージにぴったり過ぎる。読中にカバー写真を眺めながらっていうスタイルは、ぼくの場合あまりなかったはずなんだが……。

(2005/11/06)
最終更新:2007年01月28日 23:39