続・用心棒




題名:続・用心棒
原題:The Hard Stuff(2019)
作者:デイヴィッド・ゴードン David Gordon
訳者:青木千鶴
発行:ハヤカワ・ミステリ 2021.4.15日 初版
価格:¥1,900


 『用心棒』というだけで怪しげな邦題のジョー・ブロディ・シリーズ第二作。『続・用心棒』とは、何だか昔の時代劇映画みたいだ。マカロニ・ウェスタンの『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』が「続」とか「新」とか、まるで別の作品なのに、タイトルで売れっ子俳優クリント・イーストウッドの二番煎じ三番煎じを狙ったという当時の映画界事情が思い浮かぶ。

 いかがわしさ満載のこの作品は、あの毒々しい当時の映画看板を思い出させ、何だか汗臭く、昭和っぽく、やたらと懐かしい。ぼくは仕方なく、C・イーストウッドのイメージでジョーを思い描くことにしています。

 著者デイヴィッド・ゴードンが、前作『用心棒』で、従来の純文学にあわよくばと片足かけていた作風からエンタメ路線に一気に完全方向転換し、非常に庶民的、かつアクション重視のピカレスク路線をかっ飛ばし始めたのには、心底驚愕させられたものだ。そこのところを作家は、さらに確信と自信に磨きをかけ、好きなだけ愉しみ、楽しませてくれる、この続編を書いてくれたわけである。邦題はお約束の通り『続・用心棒』である。いいね。

 描写には多分にしつこさやねちっこさが残るけれど、そういう個性まで捨てよとは言うまい。ジョークやブラックを文章の裏側から抽出しつつ、圧倒的スピード感すら感じさせるジョン・ウー監督まがいの最初のド派手アクションは、ただのイントロに過ぎず、その後、ゴッドファーザーを凌駕する各種暗黒街の総会みたいなノリで、彼ら親分たちに雇われるに至って、ジョー・ブロディはますます怪しげな存在になってゆく。

 ただし、この作品、シリーズ主人公をさておいての個性的キャラクターのオンパレードが特徴でもあり、各人種・各異常性格、各人各様の裏切りや欲望等々、サブストーリーの分厚さと豊富さが、作者の語りに拍車をかける。まるで木戸銭を払って紛れ込む縁日の見世物小屋のような極彩色のオフビート・ギャング・ストーリーなのだ。タランティーノくらいしかこれを映画化することはできないかもしれない。

 ジョーの親しいイタリア系マフィアの親分・ジオ。彼の個人的趣味や、その後の葛藤が、不気味で可笑しすぎるのだが、それぞれに絡み合うキャラクターの間の裏切りや企みを各ページに載せたまま、重戦車級のヘロイン&ダイヤモンド強奪兼取引現場へとストーリーが雪崩れ込む。舞台のニューヨークは、作者の育ったそうな怪しき町クイーンズ。人種のるつぼ。貧困と混沌の野外ステージ。

 イントロとメインでの二つのビッグ・アクションの後、キャラクターたちは、それぞれの運命の岐路を迎えてゆく。いわば魔界の残務整理。それがまたきつい。過酷で容赦なく、血と欲望にまみれている。

 個人的には多くのキャラの中でも、割とまともな二人の若手がぼくは好きである。アクロバティックなドライビングテクニックを駆使するキャッシュと、IT関連とりまとめ役でハッカーでもあるジョシュアだ。

 さて皆さんはどのキャラのファンでしょうか? それほど個性のかき分けが凄いのだが、何せ登場人物が多すぎて頭の整理が大変、とも言えるごった煮料理でもありました。それにしてもなんという作品であろうか?

(2021.5.16)
最終更新:2021年05月16日 12:18