死ぬまでにしたい3つのこと




題名:死ぬまでにしたい3つのこと
原題:The Six Wicked Child (2019)
著者:ピエテル・モリーン、ピエテル・ニィストレーム Peter Mohlin & Peter Nystom
訳者:加賀山卓朗
発行:ハーパーBOOKS 2021.3.17 初版
価格:¥1,440

 この作品の不思議なタイトルを見て、不思議に思ったので、まずはネットで検索してみたのだが、『死ぬまでにしたい100のこと』『死ぬまでにしたい10のこと』がヒット。ミステリーではないみたいだが、ドラマ化されたり、推奨行為として実践されたりしているようである。本書を読むまで、死ぬまでにしたいことのリストアップをぼくはちなみに考えたことすらない。

 でもこの物語の少女は、『死ぬまでにしたい3つのこと』のタトゥーを片腕に入れてから、しっかりと行方不明になってしまったそうである。本書のこのタイトルが気になる方は、その意味ではぼくの疑問に回答が得られたや否やを、読むことで探り当てて頂きたい。

 個人的なことだが、実はこの直前に読んでいたノルウェー・ミステリーが、現在とその60年前の過去を往復するという叙述だった。続けて手に取った本作も、現在と10年前とを往還してゆくミステリーであったので、その偶然に驚いた。その上、実はこの形式は、かなりぐいぐい読める。つまり恐るべきリーダビリティを発揮する、一つの特異な手法なのではないか、と今のぼくは思っている。さほどに両書は、読まされてしまう面白さ、という一点で括られてしまった。

 スウェーデン、ノルウェーと進んで、ここでまたスウェーデンに戻るという、これまた個人的な北欧ミステリー週間である。そこに特に意図はなく、たまたま北欧ミステリー好きだから。そしてその期待を裏切らない北欧ミステリーである。初めて出会う作家たちの作品も、総じて優れているところにあると言える。

 本書は、二人の若手作家のデビュー長編ということである。不思議でならないのは、これだけ連続性のある面白作品を、どうやって二人で書き紡いでいるのだろうか? そんな具体的、かつ詳細への疑問だ。どちらかがアイディアやプロットを考え出し、どちらかが文章化するのだろうか? それとも、、、。

 両作家ともピエテルというファースト・ネームで、小さな同じ町に育った幼な馴染みで、驚いたことに、10歳のときに二人で初めて犯罪小説を創作したそうだ。さらにモリーンは大学でジャーナリズムを学び、ニィストレームは俳優・脚本家として活躍していた、云々。ううむ。

 さて、本書は潜入捜査官としての主人公ジョン・アダリーの2019年の叙述から始まる。『三秒間の死角』を思わせるスリリングな潜入捜査とその後の負傷と治療。保護プログラム適用という新しい人生のスタートに向けて、緊張感のある状況が伝わってくる。

 一方、十年前の2009年に娘が行方不明になった夫婦の状況が、父親ヘイメル・ビュルワルの主観で語られる。さらに第二部以降、二つの時制は合流し、同じ時代に二人の主人公目線でストーリーは続いてゆく。どうも妻であり企業主であるシセラとの夫婦仲や生活バランスにも問題がありそうだ。

 十年前の事件の再捜査に当たるジョンは故郷スウェーデンの町の警察署に入り、名前を変え、正体を隠しつつ、実は前述の少女失踪事件の容疑をかけられている実弟の事件を探りたい。しかも保護プログラム下で命も狙われつつの仮面捜査。直前の潜入捜査後のトラウマ(PTSD)により心身がズタズタで、時折り危険な発作に見舞われるという彼の内外の状況もまたスリリングである。

 物語設定が面白さのすべてなのだが、読みどころは、やはりストーリーテリングの上手さに尽きるという気がする。多くのスリルや謎立てが先を追い立てる。ページを繰る手が止まらない。現在と過去の複層的な繋がり。ジョンとヘイメルの複雑な境遇や、心理的葛藤も、作品の世界設定に厚みを加えているかに見える。何よりも、幾人もの犯人像が浮上しては決定しない状況の連続。真相が常に、さらに深い、手の届かないところへと逃げてゆく感じは、まるで逃げ水みたいだ。歯がゆい感覚。

 だからこそ、なのだろうか? 最後の最後も、事件解決時のすっきり感に増して、人間の弱さやエゴを事件が剥き出しにさせたことでのやり切れなさ、のような後味が残る。ジョンの運命は? そう、今後もまた一筋縄では行かないだろう。シリーズ次作は、本年スウェーデン語で刊行予定ということらしいなの。日本語でも近々、再会できるときが来ると思う。

 ちなみに、プルーフ本はよく頂いたことがあるけれど、ゲラ稿に応募して読ませて頂くのは初めてである。発売前に読ませて頂いたので誠意を込めてレビューさせて頂きましたが、至らぬ点はどうかご容赦あれ。

それにしても死んだ少女の腕に残された死ぬまでにしたい3つのこと、いったい何だったのだろう?

(2021.02.24)
最終更新:2021年02月24日 16:31